関市における刃物と観光

医療の現場で活躍する関市の刃物

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関市の刀剣作りは鎌倉時代に始まったとされ、今日まで日本の刃物文化の発展に貢献してきました。それゆえに関市は「刃物のまち」と名高く、高い品質が要求される医療用刃物を製造するメーカーも複数存在します。
長い年月で培われた関市の刃物鍛造技術は、どのように医療用刃物に活かされているのでしょうか。いくつかのメーカーの実績などをもとに考察してみましょう。

外科手術に新風を吹き込む関市のメス

医療用刃物と聞いて最初に思い浮かぶのは、「メス」ではないでしょうか。メスは外科手術の現場で用いられることが多い刃物。

近年まで、日本国内の外科手術で使われているメスは海外製の物が大半。しかし、医療現場では、高性能な国産の医療刃物の開発を望む声が上がっていました。

そうした背景のなか、関市で創業した100年以上の歴史を持つ刃物メーカー、貝印株式会社及びグループ会社、カイ インダストリーズ株式会社が、新たな医療用刃物の製造を行なっています。

2016年(平成28年)、国内初のグラフトナイフが関市で誕生

KAI BTB グラフトナイフ

KAI BTB グラフトナイフ

国内ではこれまでにも外科手術用刃物の試作が行なわれてきましたが、高価で納期が長くかかり、切れ味が良すぎるがゆえに手術で扱いにくいといった問題点を抱えていました。

そこに新しい風を吹き込んだのが、2016年(平成28年)にカイ インダストリーズ株式会社が販売を開始した「KAI BTB グラフトナイフ」です。

グラフトナイフとは、前十字靭帯損傷手術(ぜんじゅうじじんたいそんしょうしゅじゅつ)にて靭帯再建をする際、グラフト(移植片)となる骨付き膝蓋腱を切離するために用いる医療用ナイフのこと。

なかでもKAI BTB グラフトナイフは、関市のメーカーとしてはもちろん、国内メーカーとして初めて製品化された物です。

関市の野鍛冶の精神が息づく、よく切れて低価格な医療用ナイフ

野鍛冶の精神

折れず 曲がらず よく切れる

もともと関市の刃物産業は鎌倉時代からの「折れず、曲がらず、よく切れる」と称された美濃伝刀剣作りに始まり、昭和以降は価格を抑えつつ品質の良い生活用刃物づくりへと技術が受け継がれた歴史があります。

そのため、日本各地にあるKAIグループの工場のなかで、高い技術を要する医療用刃物の製造は関市小屋名工場に限定されています。

KAI BTB グラフトナイフもそうした伝統技術を感じさせる、良く切れて、使いやすいのが特徴。患者の体格に合わせ、2枚のブレード(刃)同士の間隔を選択して使用できる仕組みです。

切れ味が良く、無駄のない造形を実現するデザインも評価され、「2017年度グッドデザイン賞」(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞しました。

様々な医療現場で関の刃物が活躍

KAIグループでは他にも、様々な医療用刃物を展開。

外科向けに開発されたコーティング付替刃メスは、帝王切開の際、胎児を傷付けてしまう危険性が少ないように切れにくい鋸状のブレードを用いたメスです。

皮膚科向けにも、豊富な医療用刃物を打ち出し、皮膚組織を採取するのに使う筒状メスは、世界シェアの約50%、国内シェアの約90%を占めています。

眼科用には、主に白内障の手術で使われる「MVRナイフ」といったメスも製造しています。

湿布や薬などを切る医療用ハサミに新商品を提案

メスの他にも、関市で製造されている注目の医療用刃物としては、医療用ハサミがあります。

医療用のハサミについて、新商品を積極的に提案し続けているのが、1946年(昭和21年)に創業した関市の刃物メーカー、林刃物株式会社です。

同社は各種ハサミや業務用工具などを製造する企業で、洋バサミでグッドデザイン賞を9年連続受賞、ロングライフデザイン賞も受賞するなど、機能性とデザイン性をかね備えた高品質な洋バサミを世に送り出すメーカーとして知られています。

2006年(平成18年)にギプスを切断できるハサミを考案

従来、ギプスは電動のこぎりで切るのが一般的でしたが、患者に心理的なストレスを与えたり、施術者が扱いにくいことが課題でした。

そこで林刃物株式会社では2006年(平成18年)、4枚重ねの状態まで切断できるようにした医療用の「ギプスカッター」を開発し、販売を開始。患者の皮膚が傷付きにくいよう尖端や側面に丸みを持たせるなどデザインを工夫。ハサミでギプスが切れるという点が非常に画期的な製品です。

こうした高度な加工技術が実現できるのは、関市の刃物生産体制が分業化されていることにあります。同社の刃物はプレス、研磨といった各工程を専門とする関市内の会社や職人と協力しながら、地域の職人の技術を集結させて作られた物なのです。

薬や湿布をラクラクと切るハサミを提案

他にも、林刃物株式会社は2011年(平成23年)に薬をスムーズに切ることができる錠剤カットハサミを開発。錠剤が滑って落ちることがないように、錠剤を包み込んで切るような形状になっています。

また、2019年(平成31年)3月には湿布や医療用テープなどを切るときの不便さを改善するため、刃先まで特殊コーディングを施したハサミ「サージカルテープ・湿布切りはさみ」の販売を開始しました。

関市の刃物産業は鎌倉時代の刀剣作りに始まり、そこからユーザーの要望に応えながら進化してきた歴史があります。林刃物株式会社がユーザーのニーズをくみ取って新商品を次々と形にできるのも、長い時間をかけて発展してきた関市の刃物作りの土壌があってこそなのです。

歯科医療機器も関市の職人ならではの仕上がり

歯科医療に用いるためのカービングナイフなどを製造している関市の刃物メーカーもあります。

ニッケン刃物株式会社は、ハサミを中心とした刃物を製造する一方、2008年(平成20年)ごろから歯科医療機器などの製造も行なってきました。

同社のオリジナル製品である「チタンデンタルツール」は軽くて錆びにくく、アレルギーが起きにくいチタン材を採用した物。また、煮沸消毒によって繰り返し使うことができ、家庭での歯の手入れに便利なステンレスデンタルツールなどもあります。関市に受け継がれている金属加工技術を活用した好例と言えるでしょう。

関市の医療用刃物作りの展望

関市にある多くの刃物メーカーの売り上げは家庭用包丁、使い捨てカミソリ、爪切りなどの生活用品が多く、医療用刃物が占める割合はまだまだ少ないのが現状です。

しかし、先述の貝印株式会社は、医療用メスの売り上げ増を目指して製品の開発に取り組んでおり、各メーカーがこれから医療用刃物の分野に力を入れることが予想されます。

近い将来、関市で作られる医療用刃物が多くの医療現場で用いられるようになるかもしれません。

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関市の家庭用刃物

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