関市における刃物と観光

関市の刃物産業

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日本のほぼ中央に位置する岐阜県関市。2014年(平成26年)の刃物製品の出荷額は369億円、同年の輸出額は106億円(出典:岐阜県輸出関係調査、平成29年度[関市の工業])を誇ります。名実共に、日本の刃物産業を支えているのが関市です。輸出額はピーク時の1985年(昭和60年)より減少していますが、日本を代表する刃物の産地であることに変わりはありません。
鵜飼いと清流で有名な長良川の中流部にあり、人口約8万9,000人(2018年[平成30年]4月1日現在)を数える関市で、なぜ刃物産業が勃興したのでしょうか。刀匠が関市に移り住んだところから始まる関市の刃物産業の歴史。こちらのページでは、関市独特の刃物産業の構造をご紹介しましょう。

刀剣から始まる関市の刃物産業の歴史

岐阜県関市の刃物の歴史は、鎌倉時代から南北朝時代にはじまります。刀祖「元重」が九州から関に移り住み、はじめて関で日本刀が作られたそうです。

室町時代には、孫六兼元兼定といった有名な刀匠を輩出し、最盛期には300人以上の刀匠を有するなど一大産地として栄えました。関の日本刀は芸術性も備えながらも、「折れず、曲がらず、よく切れる」と、戦国時代には武将の間で愛用されました。

しかし、江戸中期の元禄時代には、日本刀の需要が減り、多くの刀匠が小刀、包丁、ハサミなどの刃物鍛冶に転向。明治時代に廃刀令が布かれると、刀鍛冶のほとんどが欧米から紹介されたポケットナイフの生産へと移行していきました。

その後、鍛造加工による調理包丁の製造をはじめ、近代刃物の産地として発展していったのです。

第二次大戦中は軍刀の大量生産を担った時期も

医療用刃物

医療用刃物

第一次大戦によって輸出が拡大したものの、昭和初期には不況のあおりを受けました。生き残った企業は包丁や洋食器などの生活必需品を主力に再び輸出を拡大していきました。

第二次大戦中は、大日本帝国陸軍指定の軍刀の大量生産を担ったそうです。

敗戦後はポケットナイフ、洋食器刃物などの輸出を中心に復興を遂げました。

昭和30年代には高度成長期の波に乗り、安全カミソリの替刃、ナイフ、栓抜き、缶切りなど、製品が多様化していきます。昭和40年代にはドイツの「ゾーリンゲン」に並ぶ世界的な刃物の産地として関の名が知れ渡ります。

その後は、円高や輸入品の増加により輸出が減少していきますが、現在は「エコロジー」、「ユニバーサル」、「リサイクル」の分野において新製品の開発に力を入れており、医療用刃物の分野にも進出しています。

豊かな風土が支えた関市の刃物産業

長きに亘る刃物産地としての伝統と歴史を受け継ぐ関市ですが、日本一の名刀の産地としてその繁栄を支え多くの刀匠を魅了したのが、関市で採取できる良質の焼刃土と飛騨連山で採れる炉に使う松炭が容易に入手できること。そして長良川と津保川の良質な水でした。刀鍛冶にとって理想的な風土だったのです。

そうした風土で生まれた関市の刃物は、今もなお、「切れ味がよく」、「芯が強く」、「刃こぼれがしにくい」という特徴があります。

関市の刃物産業を支える約400社

そんな名品が生み出される背景として、現在、刃物関係事業所は2012年(平成24年)2月1日現在で関市内に約400社あります。そして工程加工業者、部品製造業者とともに、分業体制により作られていることも関市の刃物の特徴です。

刃物メーカーは約100社、小規模刃物製造事業所は約40社、工程間におけるプレス業、研削業、研磨業、熱処理業、仕組み業、羽布業、羽付業、メッキ業、腐食業といった工程加工業者が約210事業所、金型業、リベット業、プラスチック業、木柄業、紙器業などの部品製造業者が約50事業所あります。刃物産業にかかわる会社だけでも、関市における製造業全事業所の約3分の1を占めます。

関市の分業体制のルーツは日本刀の製造工程

しかし、なぜ分業体制を取っているのでしょうか。その答えは、日本刀の製造工程にあると言えそうです。日本刀は、①刀匠や②研師(とぎし)、③鞘師(さやし)、④白銀師(しろがねし)、⑤金工師、⑥柄巻師(つかまきし)、⑦塗師(ぬし)などの職人による分業体制で作られています。
日本刀製造の分業体制

日本刀の製造工程

日本刀の製造工程

刀匠は、皮鉄(かわがね)を折り返しながら鍛錬し、やわらかい心鉄(しんがね)を何度も折り返して鍛錬し、皮鉄の中に入れ、刀の形に打ち延ばしたら、土取りを行なって焼入れをし、刃文を作ります。

刃物の研磨を行なうのは研師です。研師の腕前が刀の仕上がりを左右すると言われています。さらに刀身の保護と、日本刀が周りを傷付けないように隔離するを作るのが鞘師、刀が鞘に収まったときに鞘に触れるのを防いだり、と刀身を固定する金具「」(はばき)を作るのが白銀師です。

刀の重心を調節する鍔や刀身と柄が抜けないように止める目釘(めくぎ)、目釘を覆う目貫(めぬき)、小柄(こづか)や(こうがい)などの刀装具を作るのが金工師。柄糸、鮫皮、和紙を使って日本刀の持ち手の柄を補強し、握りやすく滑りにくくするのが柄巻師、塗師は鞘を丈夫に美しく仕上げるために漆を何度も塗り固めます。

日本刀が多くの職人の手で作り上げられるように、関市の刃物はその伝統的な製造工程をそのまま受け継いでいるのです。

分業体制がもたらす恩恵

各工程のプロフェッショナルが各製造工程にかかわることで、質が高く、付加価値のある製品が生み出されています。人件費も抑えられ、多岐にわたる商品数があっても少量生産できるのも分業体制の特筆すべき点です。

関市の刃物産業の現状はどうなっている?

高品質な関市の刃物は、日本はもちろん世界でも支持されていますが、輸出額はどうなっているのでしょうか。「平成26年岐阜県輸出関係調査」によると、1985年(昭和60年)には282億円、1998年(平成10年)以降は100億円前後で推移し、2014年(平成26年)には106億円、ピーク時の約3分の1となりました。

輸出については、1985年(昭和60年)の先進5ヵ国による為替レート安定化に関するプラザ合意以降は、円高の影響もあってか、減少傾向にあるものの、100億円前後の水準を維持。2017年(平成29年)度の刃物類の最大輸出相手国は、全体の約30%を占めるアメリカ合衆国です。次いで8.5%の中華人民共和国、6.8%のドイツという順になっています。

家庭用刃物の国内のシェアは圧巻

包丁

包丁

一方、国内におけるシェアはどのくらいなのでしょうか。

経済産業省の「2014年度の工業統計調査」によると、まず包丁は、岐阜県が約58%を占めています。

ナイフ類は約55%、理髪用を除くハサミは28%、理髪用刃物は約74%、爪切りや缶切り、栓抜きなどの利器工匠具は60%を占めています。

全国の家庭用刃物の出荷額は、岐阜県が50%近くを占めており、全国第1位になっています。

なお、全国第2位は31%の新潟県。食卓用刃物生産のほとんどを占めていて、家庭用刃物では岐阜県と新潟県が2大産地と言えます。

刃物の町・関市が抱える刃物産業への課題

1975年(昭和50年)には関市における製造品出荷額の43.5%を刃物が占めていたと言います。その後、輸送金具、機械器具、金型などの金属製品の製造品出荷額が増えていき、1984年(昭和59年)と1992年(平成4年)が関市の刃物出荷のピークとなりました。

レジャーブームの高まりにより、ホテル向け刃物の需要が高まったことなどが背景ですが、その後、消費は落ち着き、2014年(平成26年)、刃物の出荷割合は約11%になっています([平成29年度関市の工業]より)。

出荷額全体で見れば刃物の出荷割合は減っていますが、2014年(平成26年)の刃物の製造品出荷額は約369億円で前年の約339億円と比べ、約30億円の増加となりました。

ただ、4人以上の事業所数が565事業所と、前年より8事業所減少しました。従業者数は増加しているので、雇用状況は上向きですが、地場産業を支える事業所の減少などの課題もあります。

刃物産業のマーケット開拓、後継者の育成

現在、中国など海外からの安価な刃物が流入していること、調理済み食材を多用する食生活の変化により家庭で包丁を使う機会が減少していることが、国内需要減の原因です。

そのため、関市では高品質で付加価値の高い高級刃物を作ること、環境や福祉といった特定消費者に合う製品を送り出すこと、医療分野への参入に積極的に取り組み需要拡大を図っています。

今後、多くの企業が新商品や用途の開発、販路開拓を行ないながら、後継者育成と3K(キツイ、汚い、危険)といった職場環境の見直しも進めています。

関市の刃物産業の抱える課題は日本の産業全体に共通

懸念事項としては、工程加工業者の減少やコスト削減のための工程の内製化や自社一貫生産体制への移行による、関市ならではの分業体制の崩壊が見られることが挙げられます。工程自体を海外に下請けに出したり、生産拠点自体を海外へ移転し、商社機能を強化する企業もあるそうです。

この一連の流れは、関市の刃物産業だけに見られることではなく、日本の産業全体に共通することのように思われます。これからも歴史や伝統に育まれてきた関市の刃物産業を支えるためには、関市の刃物産業にかかわる企業の努力はもちろん、日本に暮らす消費者が関市の刃物産業を見守り応援することではないでしょうか。それは、日本の産業全体を支えることにもつながります。

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