世界の剣舞
アジアの剣舞:インド
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アジアの剣舞:インド

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インドの古典伝統舞踊は、ナーティヤ・シャーストラの記載内容に即した芸術性の高い舞踊と、理論に捕らわれず発展した民俗舞踊があります。いずれの舞踊においても、テーマによって剣が登場し、悪を懲らしめたり、倒したりする際に使用されています。

世界人口第2位の国の民族舞踊

インドの国旗

インドの国旗

インダス文明に始まり、5,000年もの歴史を持つ南アジアの大国・インド。人口は13億3,800万人余(2017年世界銀行の調査)に昇ります。

インドにはインド・ヨーロッパ語族とドラヴィダ語族、オーストロアジア語族、モンゴロイド系のシナ・チベット語族等の他に複数の民族が暮らしています。公用語はデーヴァナーガリー標記のヒンディー語。他にも多くの言語が使用されており、紙幣には15種類の表記がされています。

宗教は、人口の約80%がヒンドゥー教を信仰しており、他にイスラム教、キリスト教、シク教、仏教などを信仰。言語、宗教も多彩な多民族国家・インドでは、古くから民族ごと、地域ごとに文化や習慣が形成されてきました。

インドに残る古典民族舞踊。インド舞踊は本来、神様との交流の手段として発展したものです。そのため、ヒンドゥー教寺院に属す神様へ奉仕する役目を担う女性「デーバダーシ」によって継承されてきました。

バラタナティヤム

バラタナティヤム

今日では「バラタナティヤム」、「カタカリ」、「カタック」、「マニプリ」の4つの舞踊がインドの4大古典舞踊です。

インド舞踊には芸術的なものと民俗的なものがありますが、4つの舞踊は芸術的な古典舞踊として尊ばれ、インド舞踊と演劇の聖典とされる「ナーティヤ・シャーストラ」に記された理論や技術に即して継承されています。

ナーティヤ・シャーストラとは、6~8世紀頃、インド初の音楽評論家であるバーラタが著わしたとされる物ですが、その主要部分は2~5世紀には成立していた事柄だと言われておりました。

ナーティヤ・シャーストラでは、テーマの神話的な起源や、ラサと呼ばれる感情表現の手法、動作、化粧や装束、作品に潜む魅力といった表現に関する事項から音楽や楽器、歌まで演劇と音楽、舞踊全般について記されています。

中でもラサには恋、雄々しさ、怒り、憎しみ、おかしみ、悲壮感、驚き、奇妙な感じの8つの情感を観客に喚起させるための手法などを手引き。ナーティヤ・シャーストラの発刊以降は、舞台芸術の殆どがその趣旨に即して行なわれるようになりました。

南部のチダムバラムの街にある、12世紀に建立されたヒンドゥー教の古刹、ナラタージャ寺院にはナーティヤ・シャーストラの教えに即したポーズを取る108体の彫像が残されています。

インド舞踊の大きな特徴として、舞踊は劇と融合されて舞踊劇という形式で催されるということがあります。舞踊を通じ、宗教的神話や叙事詩をストーリーに即して演じるのです。

インドの4大古典舞踊

バラタナティヤムは、南インドのタミール地方に残る舞踊で、巫女が寺院で舞う舞踊に起源を持っており、4つの舞踊の中で最も古くから伝えられているものとされています。舞い手は女性ひとりのみで、足首に付けた鈴の音に合わせてステップを踏みながら踊るのが特徴です。バラタナティヤムの舞い方の特徴はムドラーやハスタと呼ばれる手の型であり、片手は28種、両手は24種ある型で神への賛美を表現します。

カタカリも同じく南インドのマラバル地方を発祥とし、インドの叙事詩である「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」の中のストーリーを舞踊で表現する舞踊劇。マハーバーラタとラーマーヤナはヒンドゥー教の重要な聖典であり、神話的叙事詩です。演者はすべて男性で、派手な化粧を施し、衣装をまとい、演者は声を発することなく、シンバルや太鼓の奏でる音に合わせて踊り、表情や手の動きを通じてストーリーや情感を観客に伝えます。

カタックはインド北部、ガンジス川の流域を起源とする舞踊劇で、クリシュナ神と牛飼い女ゴーピーの物語を舞踊化したものです。最初は寺院に奉納される宗教儀式であったものが、宮廷舞踊に取りこまれ、さらにイスラム文化の影響が加わり優雅な舞踊となりました。カタックの演者も足に鈴を付けて舞い、俊敏なステップや静止を織り交ぜて踊ります。

そしてマニプリは、18世紀のマニプリ王・バギャチャンドラ王がクリシュナ神を称えるために創作した舞踊劇です。舞い手の女性は、宝石や鏡の付いた華やかな衣装を身に付け、太鼓や笛、エスラジという擦弦楽器(さつげんがっき)の奏でる優しい音楽に合わせて優雅に踊ります。マニプリの舞い方の特徴は、ムドラーやハスタの手の表現とともに、踵を地面に付けずに舞うのです。

4大古典舞踊の他にも、南部のケララ州のアッタム、東部・オリッサ州のオディシィ、南東部のアンドラ・ブラディシュ州に伝わるクチプディ、南部のカルナータナ州で盛んな民族舞踊劇・ヤクシャガーナ、パリ・ガンダというマーシャル・アーツを礎とする仮面劇・チョウなど多彩な民族舞踊がインドには残されています。

インド舞踊の中の剣

インドの古典伝統舞踊は、ナーティヤ・シャーストラの記載内容に即した芸術性の高い舞踊と、理論に捕らわれず発展した民俗舞踊があり、いずれの舞踊においても、テーマによって剣が登場します。

カタカリ

カタカリ

演者を男性のみとするカタカリにも、剣が登場。演者が無言のまま化粧や衣装、動作と表情のみで表現するカタカリでは、舞踊の開演前の化粧風景から観客に披露されます。目の動きも表現においては重要なため、化粧の際に演者は目にスパイスを入れて充血させるのも見どころのひとつです。

そして装束を整えると舞踊が始まり、太鼓などの音に合わせて演者が表情と手、指の動きまで駆使してパントマイムを始めます。

ラーマーヤナの一節に、王子と美女が登場するストーリーがあり、この一節の中で、美女は実は悪人で王子に近づこうとするのですが、王子が女の正体に気づいたとき、剣が抜かれるのです。ここで使用されるのは、長剣で片刃、緩く湾曲した剣です。舞踊の中で悪を懲らしめたり、倒したりする際に剣が使用されています。

一方、仮面舞踊劇チョウにもしばしば剣が登場。チョウの礎となったマーシャル・アーツ、パリ・カンダとは、インドの武術であり、防御と剣を使用した攻撃術の訓練なのです。「パリ」は守護を意味し、カンダは剣を表します。チョウの演目は神を題材にしたものが多く、寺院などの仮面舞踊祭等で披露されるのです。

チベット仏教の寺院で催される「ティクセ・グストル」というお祭りでは、守護尊の仮面を付けたチョウが舞われます。仮面は紙と粘土で作られており、鼻の部分に小さく開けられた穴で呼吸をしつつ、守護尊の演者は剣を手に舞い踊るのが特徴です。

チョウの伴奏は、ドールやダムシャと呼ばれる太鼓と、ペプティという管楽器などで奏でられます。インドの独特な古典舞踊には、人々の敬虔(けいけん)な信仰心と高い芸術性が息づいているのです。

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