刀剣と日本の民族舞踊
鬼剣舞の演目
刀剣と日本の民族舞踊
鬼剣舞の演目

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民俗芸能ながら、バラエティに富んだ演目を持ち、踊り方に技量を要する鬼剣舞(おにけんばい)は、全国各地に残る芸能の中でも特筆すべき存在であり、現在も多くの人々に愛され、次世代へと継承されています。その演目には勇壮で力強い踊り、優雅で格調高い踊り、軽快でアクロバティックな踊り、集団で賑やかに踊る群舞など、様々な形式の踊りが取りこまれているのです。

伝承地ごとに異なる演目

岩手県北上地方に伝わる、日本刀(刀剣)を手にした民俗舞踊・鬼剣舞(おにけんばい)は、伝承地ごとに師匠から次世代の弟子へ秘伝書を伝授するという形式で継承されてきました。現在も残っている古い秘伝書は、岩手県北上市の岩崎鬼剣舞に残されている「念仏剣舞伝」で、1732年(享保17年)に記述された物です。

各地で巻物として残されている秘伝書には、踊りの由来、演目や踊り方、所作、装束、採り物などが記されています。継承者達は、秘伝書の記述に即して演目などを決めて踊るのが特徴です。

現在採用されている演目は、地域により異なりますが、12~20以上あるとされていて、12演目が一般的とされています。その演目には勇壮で力強い踊り、優雅で格調高い踊り、軽快でアクロバティックな踊り、集団で賑やかに踊る群舞など、様々な形式の踊りが取りこまれているのです。

一番庭

一番庭

演目の組み合わせや踊り方は組ごとに異なり、伝承地ごとに多彩な鬼剣舞を披露しています。鬼剣舞は、演目の基本とされる「一番庭(いちばんにわ)」が始まり。一番庭は踊り手が揃って踊る演目ですが、「礼舞(れいぶ)」とも呼ばれ、踊り手は扇を手に、念仏などに合わせて格調高く穏やかに踊ります。

一番庭のあとには「一番庭」と対を成す「一番庭の狂い」が踊られます。一番庭の狂いは、別名を「扇合わせ」と称し、向い合せた踊り手が扇と手を合わせながらゆったりと華やかに踊ります。「狂い」とは「崩し」の意味であり、一番庭を変更したものなのです。

一番庭の狂いに続いて踊られる「二番庭(にばんにわ)」もまた、格調高く華やかな踊りですが、一番庭の狂いよりやや激しい踊りです。神社や仏閣で披露される際は、この「二番庭」が最初に踊られます。

勇壮な演目

鬼剣舞の魅力とは、優雅さや格調の高さにもありますが、何よりも踊りが力強く勇壮であることです。踊り手は、常に気迫を込めて踊り、所作のひとつひとつに気が配られています。反閇(へんばい)や跳躍など、激しい動作や柔軟な振りも、囃子に合わせて滑らかに切り替えながら踊られるのが特徴です。

そして一同が一斉に踊る群舞では、各々の気迫がぶつかり合い、融合し、ダイナミックな民俗芸能としての美を観る者に感じさせます。二番庭に続いて踊られることが多い「三番庭」は、念仏に合わせて踊られる勇壮な演目であり、三番庭に続く「三番庭の狂い」は、伴奏、踊りともに変化に富んでおり、軽快で活気に満ちています。

「剣舞(けんばい)」と言われるだけに、鬼剣舞には日本刀(刀剣)を採り物として使用する演目が多く、「刀剣舞(とうけんぶ)」、「刀剣舞の狂い」では、踊り手は腰の太刀を抜いて踊ります。

刀剣舞では、8人の踊り手は太刀を手に、力強くかつ格調高く剣舞を踊るのが特徴です。刀剣舞に続き、刀剣舞の狂いでは、勇壮さに躍動感が加わり、踊り手は互いに太刀を打ち合いながら踊ります。その動作には武術を競うような雰囲気があり、民衆と言うより武者の踊りのような力強さを湛えています。

八人加護

八人加護

鬼剣舞の演目における、剣舞の代表的なものは「八人加護(はちにんかご)」です。八人加護の囃子や踊りはとても変化に富んでおり、8人の踊り手は太刀を手に輪になって、刃をかいくぐったり、跨いだりして、荒れ狂う武者の様相で踊ります。

八人加護にも狂いがあります。八人加護の囃子と踊りを、ひとりの踊り手が踊る演目です。

八人加護の踊りを、2人の踊り手が踊る演目は「二人加護」と称されています。二人加護は、仏様への感謝を表す踊りであり、独特の太刀さばきが特徴です。

また、現在は北上市の滑田鬼剣舞会とその系列の踊会で使用される演目の「三人加護」も、太刀を使用した演目。その名の通り踊り手は3人で、3人の踊り手のうち2人は太刀を、ひとりは幣(ぬさ)を振りかざし、神楽の拍子に合わせて踊ります。三人加護は厄災を祓い、五穀豊穣を祈念した踊りです。

踊り手が3人輪になって踊る剣舞「ムギリ」でも太刀を用います。踊り手はひとりが太刀を2本使用し、両手に持って振りかざしながら踊るのです。

格調、躍動感、滑稽さなど多彩な魅力

鬼剣舞の踊組の中で、最も踊りの上手な踊り手が白い面・大威徳明王の面を着けますが、演目「一人加護」では、大威徳明王の面を着けた踊り手だけが舞を披露します。

一人加護は、扇を使用する舞、太刀を使用する舞、素手で舞うという3種で構成された演目で、踊り手はひとりだけで各種の舞を格調高く、勇壮に踊らねばなりません。そのため、踊りの技量を持つ者に振り分けられるのです。

同じくひとりの踊り手が舞う「狐剣舞(きつねけんぶ)」は、とても特徴的な演目です。三人加護と同様に、北上市の滑田鬼剣舞会とその系列の踊会で使用される演目で、踊り手はひとり、鬼面ではなく狐の面を着けて踊ります。

昔、奉納祭の踊り手が急病になってしまった際に、稲荷大明神の化身である狐が踊り手に加わり、奉納を無事終えることができたという伝説をもとに構成された演目。神秘的な雰囲気から軽快な調子に転調する、扇の舞、太刀の舞の足遣いなどに独特の所作が取りこまれている、といった特徴的な内容の演目です。

そして、最も躍動感にあふれた演目が「宙返り」。その名の通り、踊り手は太刀を手に大きく宙返りを披露する他、派手な動きで躍動します。宗教的な意味合いを持つ演目の中で、曲芸的な面白味を持つ演目として際立っています。

カニの抜け殻を想起させる、余興的な演目「カニムクリ」でも、踊り手は宙返りや組み体操のような激しい動きを披露します。2人の踊り手が組を成し、車座や風車といったアクロバティックな動きを繰り返し、踊りの技術のみならず、高い運動能力と体力を必要とする演目です。

滑稽な演目の代表格は、「膳の舞(へきのまい)」。別名を「平木(へぎ)まわし」とも言い、踊り手は膳もしくは盆を2枚持ったまま踊ります。踊りの最中に、宙返りや左右への跳躍を盛り込んだ、軽快で滑稽な雰囲気の楽しい演目です。

主要な演目には含まれていませんが、「カッカタ」も滑稽な雰囲気の演目。主役はカッカタの踊り手で、金剛杖を2本持つ場合もあり、道化の面に合わせた滑稽な動作を繰り返します。その様子は勇壮さとはかけ離れ、下世話ながら屈託のない面白味を感じさせる内容です。

可愛らしい演目として、胴取りが主役となる「胴取り」があります。踊り手や囃子の面々とともに踊組に加わる少年少女が、太鼓を打ち鳴らしながら踊り、少年達は勇壮に、晴着の少女達は華やかに可愛らしく舞い踊る演目です。

民俗芸能ながら、バラエティに富んだ演目を持ち、踊り方に技量を要する鬼剣舞は、全国各地に残る芸能の中でも特筆すべき存在であり、現在も多くの人々に愛され、次世代へと継承されています。

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鬼剣舞(おにけんばい)の始まりには2つの説があり、8世紀初頭の大宝年間に修験道の祖とされる「役小角(えんのおづの)」が念仏を民衆に広めようと、念仏を唱えながら踊ったことが起源とする説。もう一説は9世紀初頭の大同年間に羽黒山の法印大和尚である善行院が荒沢鬼渡大明神にて悪霊を祓い、衆生済度(しゅじょうさいど)を祈念して踊ったことを所以とするものです。いずれにせよ、東北の鬼剣舞は8~9世紀頃から始められた念仏踊りを起源としています。

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鬼剣舞の装束

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現代に伝わる鬼剣舞(おにけんばい)の装束は昭和初期に確立された物であり、それ以前は組ごとに多種多様な装束をまとって踊られていました。今でも地域によって神様への捧げ物である御幣(ごへい)をかたどった物や、幣(ぬさ)という紙や麻の紐や布を垂らした物を使用する地域、太刀ではなく長刀(なぎなた)を使用する地域、竹や木などを重ねて作った楽器・簓(ささら)などを小道具として持つ地域、鎧を身に付けて踊る地域など、鬼剣舞には多種多様な様式が存在しています。

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現在でも日本刀(刀剣)を使用する祭事、民間の神楽が継承されている地域が日本全国に点在し、人々に厄除、豊作記念の奉納行事として継承されています。

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