刀剣と日本の民族舞踊
鬼剣舞の装束
刀剣と日本の民族舞踊
鬼剣舞の装束

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現代に伝わる鬼剣舞(おにけんばい)の装束は昭和初期に確立された物であり、それ以前は組ごとに多種多様な装束をまとって踊られていました。今でも地域によって神様への捧げ物である御幣(ごへい)をかたどった物や、幣(ぬさ)という紙や麻の紐や布を垂らした物を使用する地域、太刀ではなく長刀(なぎなた)を使用する地域、竹や木などを重ねて作った楽器・簓(ささら)などを小道具として持つ地域、鎧を身に付けて踊る地域など、鬼剣舞には多種多様な様式が存在しています。

様々な鬼の面

岩手県宮城県の各地に伝えられている鬼剣舞(おにけんばい)では、刀剣とともに面が使用されます。地域によって踊り手の数や踊り方は異なりますが、どの地域でも威嚇的な形相をした鬼のような面を使用。しかし、鬼剣舞の面は鬼を表しているのではなく、仏の化身を表しています。

北上鬼剣舞衣装

北上鬼剣舞衣装

北上地方の鬼剣舞では、囃子は太鼓1名、金属の2枚の鉦(しょう)を両手で刷り合せて音を出す手平鉦(てびらかね)の奏者1~2名、笛の奏者2~4名から成り、鬼の面を着けた8人の踊り手、ひょっとこのような表情の、道化の面を着けた「カッカタ」、晴着を着た「胴取り」という少年少女が一団となって踊ります。太鼓、手平鉦の奏者は合わせて念仏も唱えます。

8人の踊り手は、かつては男性のみでしたが、現在では女性の踊り手もいるほど。

北上市を中心に近隣には多くの鬼剣舞の継承団体があり、北上市の13組の団体では踊り手が、面を着けて踊るのが特徴です。

踊り手のひとりは白い大威徳明王(だいいとくみょうおう)の面を、他の踊り手は異なった色で塗られた「阿吽」の面を着用。陰陽五行説に基づく白・青・赤・黒の4色は、それぞれ東西南北、四季を表すとともに、厄災を退け、人々を救済する仏=明王が配されています。

白色の大威徳明王は西で秋を、青色の降三世明王(こうさんぜみょうおう)は東で春の赤色の軍茶莉明王(ぐんだりみょうおう)は南で夏を、黒色の金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)は北で冬を示しています。

通常、白い面、大威徳明王の踊り手に最も達者な踊り手が当てられ、大威徳明王だけが「一人加護(ひとりかご)」という、仏様のご加護に感謝を示す踊りを踊ることができます。この4人の鬼は仏の化身であるため、角はありません。

そして追随するカッカタは大日如来(だいにちにょらい・不動明王)の化身であり、黄色で滑稽な表情をした面を着け、東西南北の中央を意味し、季節は土用を示しています。土用とは五行の暦で季節の移り変わりを示すために設けられた暦日であり、立夏・立秋・立冬・立春という四立の直前約18日間ずつのことです。

面を着けた踊り手は皆、腰に刀を差しています。装束や踊りもさることながら、鬼剣舞の特徴として、反閇(へんばい)という歩行方法があります。反閇とは、陰陽道で用いられる歩行法で、邪気を祓うためのもの。念仏を唱えながら、しっかりと大地を踏みしめつつ、足を左右に踏み違えながら歩きます。反閇は神楽(かぐら)や猿楽(さるがく)でも取り入れられており、鬼剣舞には修験道だけでなく陰陽道の信仰も息づいていることが、この歩行法に表われています。

北上地方の鬼剣舞の衣装

鬼剣舞の衣装も、地域ごとに異なります。北上地方の鬼剣舞では、踊り手は日本刀(刀剣)、面の他に、頭部に毛采(けざい)という頭髪状の物を着用。顔に白い布を巻き、毛采を乗せ、白い鉢巻きをした上で面を着けるのです。毛采は、馬の鬣(たてがみ)や尻尾の毛で作られています。

上半身にまとう身頃(みごろ)は格子模様や市松模様、斜め格子など、組によって異なる柄の物を着用し、有色の布に紋を染め抜いた胸当てを付けます。胸当ての地色や紋も組によって異なり、各々の領主や庇護者の家紋などが使用されています。

そして上半身に着用する身頃の袖口は平口で、赤いたすきをかけます。露わになった腕には、鎖帷子(くさりかたびら)と手甲(てっこう)を着用。稀に、念仏剣舞の踊り手のように、腕抜きを着用する人もいます。

腰から下は広口袴(ひろぐちばかま)を穿き白い腰帯を締め、腰の後ろ側に「ゴザッバネ」などと呼ばれる、ゴザで裏打ちされた大口を結び付け、さらに脱垂(ぬぎだれ)をかけるのです。大口とは、屋外で使用するゴザのことで、大口に染め抜かれた図柄も、組により異なります。

かつては、膝から下を細く絞った裁っ着け袴(たっつけばかま)が着用されることもありましたが、現在では広口袴が使用されています。

袴の下の足には脚絆(きゃはん)を巻いて、白足袋に草履履き、鬘に面、大口と踊り手は多くの装束を身に付けて踊ります。

なお、北上地方に継承される「雛子(ひなこ)剣舞」は、少女が踊り手であり面は着けず、振袖に腰帯を着用して菅笠を被り、背中には四角い袈裟(けさ)と呼ばれる布を付け、手には錫杖(しゃくじょう)と飾りの付いた唐団扇を持ち踊るのが特徴です。

一方、囃子方は紋付に袴を着用。胴取りの少年少女は、それぞれ和装の晴着を着用して一団に加わります。このような鬼剣舞の装束は、昭和初期に確立されたものであり、それ以前は組ごとに多種多様な装束をまとって踊られていました。

しかし、岩手県内でも北上地方以外に継承されている鬼剣舞の団体や、宮城県の団体等では、北上地方とは異なった装束を着用します。

鬼剣舞の採り物と使用法

鬘に大口、脱垂(ぬぎだれ)、たすき掛けに鬼の面、腰には太刀と、凝った装束に身を包んだ北上地方の鬼剣舞の踊り手は、面の他にもいくつかの採り物、小道具を携帯し、舞に使用します。

まず、「剣舞」の名の通り、8人の踊り手は腰に太刀を差し、踊りの中で掲げたり振り回したりするのです。

かつては真剣を使用していましたが、現在では踊りのために作られた模造刀が使用されています。他の地域では、太刀ではなく脇指を使用することもあります。

鬼剣舞の演目には、太刀を使用するものが多く、踊り手は囃子に合わせて太刀を抜き、互いに交差させ、躍動的に、勇壮に踊ります。踊りの所作のなかには武術の形や動きも取り入れられていて、民衆の芸能ながら武者のような動きもあり、技を互いに競い合うような踊りもあります。

また、太刀の他に金剛杵(こんごうしょ)も携帯。金剛杵とは、仏教で用いられる法具です。金剛杵は、インドの神話に登場する武器を模した物で、密教では煩悩を打破する菩薩心の表象とされており、修験者が必ず携帯するという重要な仏具です。鬼剣舞では、金剛杵を模した赤い小棒を左手中指にはさんで踊り、太刀や扇をもって踊る際には使用しません。

そして、雛子剣舞の採り物とされている錫杖も同様に仏教の道具を模した物です。本来の錫杖は、音を鳴らしながら使用する杖で、修験者を守り、煩悩を払うとされるものですが、雛子剣舞では、杖の先に唐団扇を付け、舞に合わせて使用します。

大ぶりな舞扇も採り物として携帯。舞扇は、「扇合わせ(おうぎあわせ)」をはじめ、多くの演目で使用され、使用法によって軽快に、優雅に踊りを引き立てる重要な採り物です。

鬼剣舞御幣

鬼剣舞御幣

他にも、地域によって神様への捧げ物である御幣(ごへい)をかたどった物や、幣(ぬさ)という神様への捧げ物で、紙や麻の紐や布を垂らした物を使用する地域、太刀ではなく長刀(なぎなた)を使用する地域、竹や木などを重ねて作った楽器・簓(ささら)などを小道具として持つ地域、日本刀(刀剣)に加えて鎧を身に付けて踊る地域など、鬼剣舞には多種多様な様式が存在しています。

鬼剣舞の装束

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