武士の芸事・吟剣詩舞
吟剣詩舞の衣装と小道具
武士の芸事・吟剣詩舞
吟剣詩舞の衣装と小道具

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吟剣詩舞(ぎんけんしぶ)は、演劇とは異なり、凝った衣装や化粧などで詩文の世界観を演出することはありません。小道具としては打刀を主に使用しますが、詩文によっては脇指、薙刀、長巻、槍、二刀流などの様々な日本刀(刀剣)や、それに加えて扇や丈(じょう)という長い木の棒を用いることもあります。

吟剣詩舞(ぎんけんしぶ)の作法と衣装

吟剣詩舞(ぎんけんしぶ)とは、舞台上に繰り広げられる武士の芸術であり、礼節を重んじる日本人の生き方を表現する伝統芸能です。

そのため、吟剣詩舞の舞や舞台における所作には、武術の型や武家社会の作法が取りこまれていて、舞台に立つと吟詠(ぎんえい)者と演者は最初に観客に向けて丁重に礼をします。その後、朗詠と剣舞(けんぶ)を始め、演目の終了時には再び観客に礼をし、舞台を降りることが作法とされています。

また、舞台上では吟詠者、演者とも正しい姿勢で立ち、移動する際には能楽や雅楽、剣道と同様にすり足で進みます。

剣詩舞の衣装

剣詩舞の衣装

吟剣詩舞は、演劇とは異なり、凝った衣装や化粧などで詩文の世界観を演出することはありません。大道具や置き道具も使用せず、剣舞では日本刀(刀剣)の他、たすきや鉢巻きを加えることにより、場面を演出します。

そして日本刀(刀剣)を持たず、扇を使用する詩舞では、日本舞踊と同様に舞扇を使用します。

装束は、吟詠者、演者とも和装の礼服や稽古着、紋付と袴などの正装を身に付けます。

和装の場合、男性の襦袢はグレーや薄茶色の物、白足袋着用、草履の鼻緒も白が望ましいとされていました。また、大島紬(おおしまつむぎ)、紬などの着物は舞台には不適切とされ、季節にふさわしい素材、色、柄、帯を着用することが舞台上の作法とされています。

本来、吟剣詩舞は武士の教養に端を発するため、紋付、袴の着用が基本とされていました。しかし、近代の戦争にまつわる詩文においては洋装、軍服姿、白いシャツにズボンの学生服などで剣舞を舞うことがありました。現在でも、コンクールや大会では紋付、袴、稽古着など、特定の装束の着用が定められている場合があります。

なお、女性の演者が剣舞を舞う際には、男性用の着物、袴を着用します。

そして吟剣詩舞では、通常の着物より短い、膝丈位の長さの紋付がしばしば選ばれます。力強く武術の形を披露するには、短めの方が動きやすく、表現の幅が広がります。

袴には、ズボンのように仕切りがある馬乗袴(うまのりばかま)や、仕切りのない行灯袴(あんどんばかま)の2種類があり、演者は詩文や舞の内容に即していずれかの袴を選び、着用します。

剣舞の演者は、和装の上に胴帯や刀帯といった帯を巻いて日本刀(刀剣)を携え、帯の結び方は流派や演目によって異なります。

男性、女性とも化粧を施すことは許されていますが、演劇のメイクのように演出されたものではなく、客前に立つ者としての一般的な化粧をして舞台に立ちます。

一方、詞章を詠ずる吟詠者の装束も和装での礼装、正装が基本とされていますが、洋装での吟詠も許されています。その場合も式服、礼装であることが望まれます。女性の吟詠者はほとんどが和装で舞台に立ちますが、詩文の内容に即した色調、柄の着物を身に付け、男性は紋付、袴の着用が主流となっています。

吟剣詩舞で使用する小道具

剣詩舞の小道具

剣詩舞の小道具

吟剣詩舞の剣舞では打刀を主に使用しますが、詩文によっては脇指、薙刀、長巻、槍、二刀流など様々な日本刀(刀剣)が使用されます。さらに、日本刀(刀剣)に加えて扇も併せて使用し、詩文の世界観、詩情を表現します。

また、丈(じょう)という長い木の棒を用いることもあり、戦闘の場面で槍などに見立てて使用し、緊迫感を演出します。

吟剣詩舞が誕生した最初期である明治20年頃には、舞に真剣が使用されることもあったようですが、基本的には模造刀、居合刀を使用します。明治時代に、青少年の教科として吟剣詩舞が教えられる際には、白い柄の模造刀を使用するよう教本には記されています。

現代の吟剣詩舞で使用される模造刀には、多様な金属素材が用いられていて、演者は自分に合う重さや長さの模造刀を選びます。

しかし、詩文によっては日本刀(刀剣)を腰に差しながら、鞘から抜かないこともあります。吟剣詩舞は武士の嗜みを起源とするものであるため、その身分を表現するために、鞘から抜かずとも演者は日本刀(刀剣)を腰に差し、舞扇などを使用して武士の舞を披露します。

日本刀(刀剣)ではなく扇を使用する詩舞でも、通常の扇より大ぶりな舞踊用の舞扇を使用します。

吟剣詩舞では、吟詠者や演者が持つ舞扇を、神楽や神事などで舞い手が持つ榊(さかき)や紙垂(しで)などと同様に「採り物(とりもの)」と呼ぶことがあります。採り物とは、神に捧げ物をするときに用いる物のことを指します。芸能は本来、神様への捧げ物であったため、この呼び方があてられました。

一方、吟詠者は和装の場合には併せて扇を携帯することが定められています。男性は九寸、女性は七寸程度の扇を携えます。持ち方にも作法があり、男性は扇の骨をまとめる釘の部分を押さえるように持ち、斜め下、45度の角度に向けて持つよう指導されます。一方女性吟詠者は、扇を持つのではなく、帯に差して吟詠します。帯への差し方も定められていて、左胸の下に差し、2~3cmほど扇の先が見えるよう差すことが奨められています。

以上のように、本来の吟剣詩舞には厳格な作法が定められていましたが、近年では歌舞伎や演劇と同様、演目の世界観を再現する衣装、演出のための化粧、カツラの着用、大道具の配置などを加えた大掛かりな演目も登場し、新たなファン、愛好者を獲得しています。

小道具の使用方法

小道具の使用方法

小道具の使用方法

吟剣詩舞では、限られた小道具だけを使用し、各道具には使用法が流派ごとに定められています。

剣詩舞では、武術の形に即して舞が構成されているため、戦闘場面には日本刀(刀剣)を使用します。そして主人公の身上、雨や風などの自然を表現する詩文では、扇を使用します。

扇は傘や手綱、笛などに見立てられ、舞の中で使用されることもあります。扇を何に見立て、どのように持ち、使用するのかは流派、詩文ごとに異なります。このように、扇を使用した舞の形は「見立て振り」などと称されています。

また、扇には大きさや色、柄などが詩文ごとに決められている場合があります。

吟剣詩舞の詩文では、主人公の地位を扇の色や柄で表すことがあります。地位の高い主人公の舞には金色の扇が使用され、地位の低い武者の舞には白地の扇を使用するなど、詩文の登場人物や内容によって使用される扇の色や柄が異なるのです。

扇の色や柄は、詩文の主人公の年齢や性別などによっても異なります。演者は、その属する流派の作法や演者自身の感性に即して舞に使用する扇を選択します。なかには、詩文の世界観に合わせて特製の扇を用意する演者もいて、小道具として重要視されています。

このように、吟剣詩舞では舞や吟詠の力量だけでなく、舞台上の作法、装束、使用する小物、使用方法などの詳細が詩文、流派に即して定められており、演者や吟詠者は礼節を第一とした上で、作法に則った豊かな表現を披露できるよう、日々研鑽を積んでいるのです。

吟剣詩舞の衣装と小道具

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現代の吟剣詩舞

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吟剣詩舞を鑑賞できる場所

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明治時代、吟剣詩舞(ぎんけんしぶ)は神社での奉納公演、武道場での大会、劇場などで披露されました。また、時の天皇陛下や政治家、軍の高官、外国の来賓、実業家などの主催する舞台などでも吟剣詩舞は披露され、日本武道を礎とする芸道として鑑賞されたのです。

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吟剣詩舞の演目

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