日本刀を作る

刀鍛冶の道具

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日本刀の鍛錬(たんれん)と、その制作にかかわる全工程において、刀鍛冶が用いる鍛冶道具は30点近くあります。例えば、「火床」(ほど)、「切り鏨」(きりたがね)、「捩り取り」(ねじりとり)など、刀鍛冶の道具は名前を読むのが難しい物ばかり。
現代では市販されている道具もありますが、刀鍛冶が使いやすいように手を加えたりすることや、はじめから刀鍛冶自ら作ったりすることもあります。いずれも刀鍛冶の長年の経験に基づいた創意工夫がなされている鍛冶道具です。ここでは、刀鍛冶の鍛冶道具それぞれの用途や材質についてご説明します。

鍛錬の基礎を担う刀鍛冶の大道具

火床(ほど)
鋼(はがね/こう)を熱する炉のこと。火を使う作業はここで行ないます。

構造はごく単純で、まわりをコの字型に囲む壁と「鞴」(ふいご)から繋がる送風孔の「羽口」(はぐち)がひとつ開いているだけです。この火の中で鋼の性質は常に変化しているため、作業には刀匠の経験と勘、そして度胸が重要となります。

鞴(ふいご)
火床のすぐ横に備え付けられている送風装置が「鞴」です。漢字に革偏が使われているのは「日本書紀」や「古事記」に、鹿の皮をまるごと剥いだ「天羽鞴」(あまのはぶき)という鞴が記されているからだと伝えられています。

差し鞴

差し鞴

鞴の種類は、大きく分けて2つ。足で踏んで風を送る「踏鞴」(たたら)と、手動による「差し鞴」(さしふいご)があります。

刀匠はおもに長方形の箱型で、手前の柄を前後させて風を送る、差し鞴を使用。鍛錬を行なうには、鋼が沸くまでは一定のリズムで風を送り、鋼が沸いてからは風を強めたり、弱めたりして鋼の温度を細かく調節しなければなりません。

刀鍛冶の技を支える多彩な道具

大槌(おおづち)
大槌

大槌

鋼を鍛錬するときと、素延べ(すのべ:鋼を日本刀の長さまで延ばす作業)の際に使います。別名は「向槌」(むこうづち)。

大槌を打ちおろす役目の方を「先手」(さきて)、火床で鋼を操作する役目の方を「横座」(よこざ)と呼びます。

柄の長さは80cm以上あり、上達すると腕だけを使うのではなく、全身で振れるようになるそうです。打ちおろすときの角度や強弱、横座とのタイミングを身に付けるまでには3年ほどかかると言われています。柄の材質はおもに樫。頭は鋼材。

小槌(こづち)
大槌と共に、主に鍛錬に用いる道具です。素延べ、火造り(ひづくり:延ばした鋼を日本刀の形に打ち出すこと)などにも使用され、その場合は「手槌」(てづち)と表現されることもあります。

素延べや火造りの際、小槌の角を入れないように注意しながら叩かなければならず、これには高い技術が必要です。
大槌と同じく、柄は樫で、頭は鋼材。

金床(かなとこ)
「金敷」(かなしき)とも呼ばれる、熱した鋼を叩くための鉄の作業台です。金床の面は常に平らに保っておく必要があり、作業中に槌の角で表面を傷付けたりしないよう気を付けなければなりません。
テコ棒(てこぼう)とテコ皿(てこざら)
炉で鋼を沸かしたり、金床の上で鍛錬したりするときに、その鋼を支える棒が「テコ棒」鋼を乗せる台が「テコ皿」または「テコ台」です。

テコ棒とテコ皿の材料は刀身となる鋼に少し混じるため、まったく同じ材質の材料を使用します。材質は、刀身と同じ「玉鋼」(たまはがね)。

火箸(ひばし)
玉鋼や刀身を挟んで支えるための「火箸」は、挟み口の形が何種類もあり、作業内容によって使い分けます。

火箸が重すぎると体が疲れ、作業の効率が悪くなりますが、逆に軽すぎると、作業中に曲がってしまったり、しっかり挟んだりすることができず危険です。

そのため玉鋼と相性の良い火箸を使用することが重要。火箸の材質は、すべて鋼材です。

玉箸(たまばし)
玉箸

玉箸

玉鋼を金床の上で打ち延ばすとき、玉鋼が落ちないように固定するための道具。挟み口がクワガタムシのあごのようにも見えるのが特徴です。

平箸(ひらばし)
玉鋼を炉へ入れたり出したりするとき、また、金床に乗せて素延べや火造りを行なうときに刀身を支えます。それ以外にも様々な場面で使われる、汎用性の高い火箸です。
鷺箸(さぎばし)
挟み口が鷺の頭に似ていることから、この名前が付けられたと言います。使い方は、平箸とほぼ同様。平箸より挟み口がやや大きめとなっています。
切り鏨(きりたがね)
鋼を鍛錬するときは、何度も折り返して叩きます。そのとき、長方形に延ばされた鋼の中央に、折り返しがしやすいように切り込みを入れるために使う道具です。柄は主に樫。頭は鋼材。
あてびし
甲伏(こうぶせ)などに作り込む際に使用します。「甲伏」とは、外側の皮鉄(かわがね)で、中心にある心鉄(しんがね)を包み込みながら鍛える方法のこと。

打ち延ばした皮鉄をU字型の台の上に置き、あてびしで真ん中をくぼませてU字型に折り曲げます。柄はおもに樫。頭は鋼材。

U字台(ゆーじだい)
あてびしと併用。皮鉄をU字型に折り曲げるときに支えとなる台です。材質は鋼材。
炭掻き(すみかき)
火床を使って作業をするとき、炉内の炭を掻きよせるために使用。主に先がかぎ状に曲がっています。材質は鉄。柄は木製。
焼柄(やきづか)
刀身の焼き入れのとき、刀身を加熱しますが、その際、刀身を支えるために使用される長い柄のこと。

日本刀の茎尻(なかごじり)から焼柄の先へ差し込み、作業の途中で抜けないように、茎(なかご)を差し込んだ部分を小槌で叩き込みます。

刀身の幅によって焼柄の幅も変わるので、鍛える日本刀(刀身)の種類の数だけ揃えることもあるそうです。材質は鋼材。

藁箒(わらぼうき)
鍛錬のときに飛び散る火の粉を払ったり、鋼の表面に形成された酸化膜(さんかまく)を払い取ったりする場合に用います。
塗り台(ぬりだい)
刀身に「焼刃土」(やきばつち)を塗る際に使用。「焼刃土」とは「刃文」(はもん)を焼き入れるときに用いられる土のことで、耐火性のある粘土、砥石の粉、炭の粉を水で混ぜてドロドロにした物です。

この焼刃土を塗るときに、刀身が動かないよう柱の上部に茎を挟み込み、かすがいを打ちます。材質は木製。

練り板(ねりいた)
焼刃土を練るときに使う板。この板の上にガラス板を置き、その上で焼刃土を練ります。材質は木製。
ヘラ

ヘラの大きさは、大、中、小とあり、大は焼刃土を練るときに使用。中と小は刀身に焼刃土を塗るときに使います。材質は竹など。現代ではステンレス製の物もあります。

水槽(すいそう)
焼き入れ

焼き入れ

刀身の焼き入れのとき、熱した刀身を一気に冷却するために、水を入れておく長方形の水槽です。材質は、主に檜(ひのき)。

仕上げの工程で刀鍛冶が使う道具

捩り取り(ねじりとり)
刀身に焼きを入れると捩れることがあります。そんなときには、万力(まんりき)に刀身を挟んで、この道具で捩れをならします。材質は鋼材。
せん鋤(せんすき)
せん鋤・蜻蛉せん

せん鋤・蜻蛉せん

火造りを終えた刀身の表面を、きれいに削って整えるのに使います。材質は柄が木製。せん部は鋼材。

蜻蛉せん(とんぼせん)
刀身に生じた傷を取り除いたり、刀身に「樋」(ひ)を彫ったりする際に使用。材質は柄が木製。せん部は鋼材。
鑢(やすり)
茎(なかご)をきれいに仕立てる「茎仕立て」(ながごしたて)で使用。茎には、日本刀が柄から簡単に抜けないように「鑢目」(やすりめ)を施しますが、流派によってその入れ方に特徴が表れます。材質は鋼材。
銘切り鏨(めいきりたがね)
銘切り

銘切り

茎に銘(めい)を切るときに用います。材質は鋼材。

銘切り用小槌(めいきりようこづち)
銘を切るときに、銘切り鏨を打つために使います。上手に銘を切るには、回数を重ねて練習することが必要です。材質は柄がおもに樫。頭は鋼材。
銘切り台(めいきりだい)
銘を切るときに茎を固定する鉛板。木の台の上へ置いて使います。材質は鉛。
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刀鍛冶の道具

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「折れず・曲がらず・よく切れる」。日本刀に興味がある人なら誰もが1度は耳にしたことがある、日本刀の優れた強靭性を表す言葉です。日本刀制作には、いくつもの工程がありますが、そのような刀を完成させるために、「玉鋼」(たまはがね)を叩いて鍛える「鍛錬」(たんれん)という工程が欠かせないことはよく知られています。しかし、完成した刀が良質な物になるかどうかは、実は鍛錬の直前に行なわれる、「沸し」(わかし:「積み沸し」とも)と呼ばれる工程のできによって左右されるのです。ここでは、そんな沸しの工程について順を追ってご紹介しながら、沸しが日本刀制作において重要な役割を果たす理由について探っていきます。

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焼刃土

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「焼刃土」(やきばつち)とは、刀身に「焼き入れ」(やきいれ)を行なう際に、刀身に塗る特別に配合された土のこと。日本刀制作においては、大まかに「たたら製鉄」によって、材料となる「玉鋼」(たまはがね)を精製することに始まり、刀匠による鍛錬や「火造り」(ひづくり:日本刀の形に打ち出すこと)などを経て、焼き入れが行なわれます。焼き入れによって刀身を構成する鋼が変態して硬化すると共に「刃文」などが出現することで、日本刀の美術的価値にも直結。焼刃土が登場するのは、言わば、日本刀に命を吹き込む総仕上げの場面なのです。

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棟焼(むねやき)とは

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日本刀制作における「焼き入れ」は、刀身の強さや刃の切れ味を左右する最重要工程のひとつです。その際、「焼刃土」(やきばつち)を刀身に塗る「土置き」(つちおき)が行なわれます。刃側には薄く焼刃土を塗ることで、刀身を熱したあとに水で冷やした際の冷却速度を上げ、刃部分を硬くして切れ味の良い刃にすると共に、刃文を作出するのです(=焼きが入る)。他方、棟側には厚く焼刃土を塗ることで、冷却速度を緩やかにして刀身の靭性(じんせい:粘り強さ)を高め、刀身を折れにくくします(=焼きが入らない)。このように、棟側には焼きを入れない(入らない)のが通常ですが、例外的に棟に焼きが入れた(入った)作も。ここでは棟に焼きを入れる(入る)「棟焼」(むねやき)についてご説明します。

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棟区(むねまち)とは

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「棟区」(むねまち=峰区)は、刀身の棟(峰)側にある「区」(まち:刀身の刃側と棟側が「茎」[なかご]に向かってカギ形にくぼんでいる部分)のことで、区は「柄」(つか)に収まる茎と、「上身」(かみ:刀身の区から鋒/切先[きっさき]にかけての部分)の境界線になっています。棟区は、日本刀の花形である刃側の「刃区」(はまち)に比べると、注目を集める部分ではあるとは言えません。しかし棟区は、この場所を観ることを通して、刀身が制作当時の姿をよく残しているか否かを推し量ることができる「知る人ぞ知る」鑑賞ポイントであると言えるのです。

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