日本刀を知る

日本刀を携帯(佩く・かつぐ・差す)

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かつて戦国武将が活躍した時代、携帯する物と言えば、日本刀でした。その日本刀を携帯する呼び方は、大きく分けて「日本刀を佩く」(はく)「日本刀をかつぐ」「日本刀を差す」の3種類があります。
まず、「日本刀を佩く」とは、日本刀を紐でつるす持ち方。そして、「日本刀をかつぐ」とは、背負うような持ち方。これは、鎌倉時代後期に使用される機会が増えた大太刀では、長すぎて佩くことができなくなったためです。最期に「日本刀を差す」とは、腰帯に指し込む持ち方です。長くて重い大太刀は次第に廃れ、装備しやすい打刀が重宝されるようになると、この「差す」持ち方が主流となります。
このページでは、日本刀の「佩く」「かつぐ」「差す」の違いについて、詳しくご紹介します。

日本刀を佩くとは?

聖徳太子唐本御影

聖徳太子唐本御影

鎬造りで反りが付いた日本刀「太刀」(たち)が誕生したのは、平安時代後期です。この太刀を持ち歩くことを佩く(はく)と言いました。

佩くとは、吊るすようにして付けること。

文字通り太刀は、腰に吊るして携帯したのです。

なお、日本刀ができる以前は中国等からの舶来品「唐大刀」や「唐様大刀」が使用されていました。

聖徳太子の肖像画「唐本御影」(とうほんみえい)を見ても分かる通り、そもそも、刀は腰に吊るして携帯する物だったのです。

太刀を腰に吊るす方法

(1)
太刀を腰に吊るすためには、まず「太刀紐」(たちひも)を用意します。太刀紐をひろげて一方が長くなるように2つに折ります。太刀を腰に吊るす方法(1)
(2)
次に、太刀拵に注目。2つの出っぱった物があるのが分かります。これが帯執(おびとり)です。太刀を腰に吊るす方法(2)
(3)
太刀紐の輪になっている方を柄側にして、ひとつ目の帯執に固結びをします。さらに、2つ目の帯執にも固結びします。
(4)
太刀を左腰に水平にあてて、輪になっていない方の紐を腰の後ろから回して右側に持ってきましょう。
(5)
次に、2本の紐の長い1本の方だけを輪になっている紐に通して、グッと引き締めます。太刀を腰に吊るす方法(5)
(6)
さらに、先ほど残った短い方の紐を持ち、いまの長い方の紐と結んで蝶々結びにします。そのままだと垂れてしまうので、帯状になっている紐の中にまとめて仕舞います。
(7)
左側から観ると太刀が水平な状態で固定され、美しく吊られているのが分かります。これで完成です。太刀を腰に吊るす方法(7)

また、もっと簡単に太刀を水平に保つため「腰当」という布・革製品もあります。

日本刀をかつぐとは?

大太刀(かつぎ方)

大太刀(かつぎ方)

鎌倉時代後期になると「元寇」(蒙古襲来)が勃発。何とか追い払うことができたものの、戦闘方法が大変化します。

外国人の元人には「一騎打ち」というルールは通用せず「集団戦」が行なわれるようになりました。集団戦は、徒歩兵が多数で1騎を包囲する戦法。歩兵をなぎ払うために、元軍(蒙古軍)が使用していた大きな「青龍刀」を観て感化され、大太刀が流行します。

ところが、大太刀は刀身が5尺(150cm)以上あり、長くて大きくて、とても佩く(腰に吊るす)ことができませんでした。そこで、考案されたのが自らの手に持つ方法や従者の手に持たせる方法。そして、背中にかつぐ(背負う)という方法です。

大太刀を正しくかつぐ方法

正しいかつぎ方は、自分の左肩に刀柄がくるように斜めに背負うこと。武士は皆、右利きなので左肩に柄があれば、抜刀も納刀もしやすいためです。

また、鉄砲隊が渡河をするときにも、日本刀をかつぐという方法が採られました。正しいかつぎ方は刀の柄と鉄砲の引き金部分を上にして、鞘を鉄砲の銃身にくくり付けて背負う方法。

ポイントは肩から上に鍔(つば)と鉄砲の火皿を出すこと。これなら肩まで水深があったとしても刀鞘に水が入らないし、火皿が水にぬれることはありません。火薬が湿って発火しないということを防ぐことができます。

日本刀を差すとは?

大小二本差し

大小二本差し

戦国時代になると、いよいよ「打刀」(うちがたな)が登場。それは、戦闘方法が騎馬戦(一騎打ち)から徒歩戦(集団戦)へと大きく変わったためでした。大太刀は長くて重いし、動きにくいし体力の消耗も激しいので、次第に廃れてしまったのです。

打刀が優れているところは太刀、大太刀よりも軽量で、装備が簡単な点。打刀を携帯して歩くことを差すと言います。文字通り、日本刀を腰帯に差していたからなのです。

それでは、江戸時代の基本形、大小(打刀と脇差)2本差しの基本的な作法をご紹介しましょう。

大小(打刀、脇差)を差す方法は?

日本刀を装着する位置は、必ず自分の腰の左側です。

「角帯」(かくおび:男性用の帯の一種)という帯を使用し、帯の間に入れて、差します。

角帯は幅約10cm、長さ約4m。小袖(着物)を身に付けてから、角帯を胴に3周まわして背後でしっかりと結びます。

この上に袴(はかま)を巻く場合もあります。

角帯・袴

角帯・袴

(1)
刀掛けの前に立ち、まずは脇差の柄を右手で取りましょう。左手で胴から一番近い帯の1重目と2重目を探り当て、間に指を入れて少し広げます。そして、脇差の柄を右上にして鞘の鐺(こじり:鞘の末端部分)を帯の間に入れて差します。袴を着用する場合は、鐺が袴の中に入らないように脇の外に鞘を出します。
(2)
次に打刀の柄を右手で取りましょう。左手で帯の2重目と3重目を探り当て間に指を入れて少し広げ、柄を正面に持って右手を前に伸ばします。そして刀を上斜めから、滑らすように帯の間に差すのです。

こちらも、鐺が袴に入らないように鞘を脇の外に出すこと。そして、下緒(さげお)を鞘と帯に巧みに絡めます。これは、鞘を抜きとられないように鞘の位置を安定させるため。この下緒の絡め方は各藩によって異なり、創意工夫がなされました。

なお、武士が刀を差すときには「無駄な動きがなく理に適っていること」、「美しく端麗なこと」、「安定し納まっていること」のすべてが必要と言われています。

帯刀スタイルの基本とバリエーション

大小(打刀、脇差)2本差しをするときには「平常指」という基本形はありますが、武士のセンス、あるいは藩の決まりで、様々なバリエーションが見られました。代表的なタイプをご紹介します。

かんぬき指

日本刀が地面と水平になるように差すスタイル。打刀と脇差が交差する角度は直角90度。家の門戸を外から開けられないように、内側にかける横木(かんぬき:内鍵)に似ていることから名付けられた物。威張った武士、乱暴な武士に多い。

落とし指

柄が胸に近く、鞘尻をぐっと下げて差すスタイル。さり気なく気取らない感じはあるが、やや自堕落。浪人に好まれた。

平常指

脇差は水平に近く、打刀は斜め。かんぬき指と落とし指の中間。

薩摩の若侍指

下緒を伸ばしたまま、鞘に左外から打ちかけて下に垂らしたままにするのが、薩摩スタイル。素早く咄嗟に、鞘ごと帯から抜き取れるように工夫されている。

騎乗者の天神指

馬に騎乗するときのスタイル。打刀でも太刀のように刃を下にする「天神指」にした。反りの深い打刀の場合、速歩の際、打刀の鐺が馬の尻を叩くのを防ぐために行なわれた。

日本刀を差す人とは?

現代の日本では、お金さえ払えば誰でも高級品を手にすることができます。しかし、江戸時代には全く事情が違いました。

かつて、日本に「士農工商」という身分制度があったのをご存知でしょうか。

いちばん身分が高い「士」である武士は、法令により日本刀の帯刀(たいとう:持ち歩くこと)、しかも大小(打刀と脇差)2本差しをすることが義務付けられていたのです。

なお、武士以外の身分の人は、帯刀を禁止されていました。ただし「農」の農民、「工」の職人や「商」の商人という一般庶民は、旅行のときだけは物騒なので、脇差(道中差)の携帯だけは認められていたのです。

身分相応の日本刀とは?

身分が1番高いとされた武士ですが、その中でも「階級」が存在しました。階級は、その人の家柄や役職、手柄によって決定します。

特に、武士の象徴となる日本刀は、その階級にふさわしい物を持つべきとされ、不釣合いな物を持つということは、ありえないことでした。

例えば、武士の中で最も地位が高い「藩主」(はんしゅ:藩の領主、大名)が差す刀は、古名刀の初代または二代、あるいは新刀の最上級がふさわしいとされました。次に地位が高い「老中」や「重臣」級の武士は、古刀の上位か新刀の上位。

また「中級武士」は、お国刀(おくにがたな:その武士の出身地で作刀された日本刀)の上位か中位、または古刀・新刀の中位か下級品が適当で「下級武士」は、お国刀の代下がりか無銘または仕出し物(既製品)。以上の物でも以下の物でもいけません。日本刀は身分相応の品物を持つことが、しっかりと決められていました。

【例】水戸藩の階級別所持刀

階級 刀剣名 備考
藩主 水戸光圀 燭台切光忠 光圀と言えば、水戸黄門。愛刀は備前長船派の初代、光忠の作。
家老 山野辺義忠 刀 朱銘 来国次 義忠は光圀の教育係。
刀工、来国次は、山城国の来一門、正宗十哲のひとり。
中級武士 千葉周作 武州住藤原順重 千葉周作は北辰一刀流始祖。水戸藩百石の馬廻役。順重は、周作のお国刀。

このように、日本刀は太刀、大太刀、打刀という種類によって佩く、かつぐ、差すと携帯するときの呼び方が変わるのです。

日本刀を携帯(佩く・かつぐ・差す)

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