1980年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

和月伸宏

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【るろうに剣心】で知られる和月伸宏(わつきのぶひろ)。同作では明治時代初頭の新時代を生きる元・剣士だった浪人達の苦悩を描きました。その後の錬金術を取り入れた【武装錬金】でも剣道部のエースや忍者をモチーフにした人物が登場します。和月はこれら少年漫画を描くうえで日本刀に独自の仕掛けを施します。

和月伸宏の初期刀剣漫画

和月伸宏(わつきのぶひろ)は少年時代に藤子・F・不二雄に触れ、3大週刊少年漫画雑誌(〔週刊少年サンデー〕、〔週刊少年マガジン〕、〔週刊少年ジャンプ〕)に親しみます。手塚治虫、藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ、永井豪、石川賢などが子供の頃からの愛読漫画家と述べています。

第33回手塚賞・佳作受賞後、次原隆二(代表作【よろしくメカドック】など)、高橋陽一(代表作【キャプテン翼】など)などのアシスタントを経て、師匠と仰ぐ小畑健(代表作:【ヒカルの碁】、【DEATH NOTE】の作画など)のアシスタントを務めます。

そして第68 回ホップ☆ステップ賞・佳作受賞作を経て、読み切り【戦国の三日月】(1992年〔週刊少年ジャンプ増刊号 1992 Spring Special〕掲載)で時代劇漫画を描きました。

戦国の三日月では戦国時代を舞台に、北の小国と南の大国の対立が描かれます。主人公の北の小国の百姓の少年は、北の剣術指南役・比古清十郎(ひこせいじゅうろう)とともに、侵略してきた南の大国に立ち向かっていきます。飛天三剣流(ひてんみつるぎりゅう)の清十郎は飛天無限斬(ひてんむげんざん)を用います。それは一度に100人の敵を斬ることができるとされる剣技で、愛刀・冬月(ふゆづき)を用いて披露されます。

和月の刀剣キャラ① 愛刀は逆刃刀・緋村剣心

和月はその後、明治時代初頭の東京と京都を舞台にした【るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-】(1994~1999年〔週刊少年ジャンプ〕連載)を発表します。

主人公は流浪人(るろうに)の緋村剣心(ひむらけんしん)です。親を病で亡くし孤児だったところを比古清十郎に拾われて剣心と命名されました。

こうして師の流派・飛天三剣流を学ぶも幕末動乱期に師と対立。長州藩にかかわり、多数の佐幕派の要人を斬り続け「人斬り抜刀斎」の異名で呼ばれるようになります。

けれども斬った侍の婚約者だった娘と夫婦のような時間を過ごす中でその生き方を改めます。そして鳥羽・伏見の戦い後、前線を去りました。

前線を去る前、剣心は京都の刀匠・新井赤空(あらいしゃっくう)から逆刃刀(さかばとう)を託され、愛刀とします。それは峰と刃が逆の殺傷力を持たない刀です。

第一幕「剣心・緋村抜刀斎」【るろうに剣心】より

第一幕「剣心・緋村抜刀斎」
【るろうに剣心】より

和月の刀剣キャラ② 愛刀は無限刃・志々雄真実

影の人斬りの任務を剣心が降りたその後は、長州藩藩士の志々雄真実(ししおまこと)が引き継ぎました。けれども明治維新後、政府方となった薩摩・長州藩は暗殺の事実が表に出ることを恐れ、戊辰戦争の動乱に乗じて志々雄を亡き者にしようとします。

志々雄は全身を焼かれるも生き延び、以後、京都を拠点に日本征服を目論見ます。そしてその目論見を阻止することになった剣心と対立します。

志々雄は無限刃(むげんじん)を愛刀としています。赤空の最終型殺人奇剣です。意図的にわずかに刃こぼれを刻み、斬った相手の脂をそこにためることで刃こぼれを無限につくろいます。その結果、刀を振った際の摩擦熱で焔を生み出します。

第百三十七幕「糧」【るろうに剣心】より

第百三十七幕「糧」
【るろうに剣心】より

和月の刀剣キャラ③ 愛刀は連刃刀と薄刃乃太刀・沢下条張

志々雄は直属の部下として「十本刀」(じゅっぽんがたな)を率います(瀬田宗次郎、悠久山安慈、刈羽蝙也、夷腕坊、佐渡島方治、沢下条張、魚沼宇水、本条鎌足、才槌、不二)。

なかでも沢下条張(さわげじょうちょう)は、赤空の鍛えた殺人奇剣を集める刀剣マニアです。連刃刀(れんばとう)、薄刃乃太刀(はくじんのたち)を愛刀とします。

それらは、2枚刃で傷口の縫合をさせにくくする初期作と、強度はそのままで薄く長く鍛え、わずかに重くした剣先を利用してムチのように変幻自在に用いる後期型です。

第七十八幕「十本刀・帳」【るろうに剣心】より

第七十八幕「十本刀・帳」
【るろうに剣心】より

第七十九幕「薄刃乃太刀」【るろうに剣心】より

第七十九幕「薄刃乃太刀」
【るろうに剣心】より

第七十九幕「薄刃乃太刀」【るろうに剣心】より

第七十九幕「薄刃乃太刀」
【るろうに剣心】より

和月の刀剣キャラ④ 幕末の京都の鍛冶師・新井赤空

幕末の京都で活動した刀匠・新井赤空は、斬れる刀を追求する中で「おれの造った刀が新時代を創る」を信念とするようになり、自身の鍛えた刀を殺人奇剣と称しました。それが無限刃、連刃刀、薄刃乃太刀などです。

けれども赤空は剣心が前線を去るとき、「そいつが折れたときそれでもまだ甘い戯れ言を言い続けられるなら」、「もう一度俺を訪ねて京都へ来な」の言葉とともに逆刃刀を渡しました。

そこには、人を殺す道具しか作れないものの、その結果、早く平和が訪れることを願う赤空の矛盾した心がありました。このとき剣心は不殺(ころさず)の誓いを立てることになります。

第八十一幕「赤空の想い」【るろうに剣心】より

第八十一幕「赤空の想い」
【るろうに剣心】より

和月と歴史・時代小説

るろうに剣心は、少年漫画では難しいとされていたという歴史ものにもかかわらず、読み切り戦国の三日月の読者アンケートの結果がよかったことから描くことになりました。

富田常雄【姿三四郎】と司馬遼太郎【燃えよ剣】の混合が目指された読み切り【るろうに-明治剣客浪漫譚-】(1992年〔週刊少年ジャンプ増刊号1992 Winter Special〕掲載、1993年〔週刊少年ジャンプ〕掲載)を経て連載化され、連載3 年目にはテレビアニメ化・テレビゲーム化。

その翌年アニメ映画化され、和月の代表作となりました。テレビゲーム「ドラゴンクエスト」の人気による西洋剣人気の中、日本刀への関心が高まるきっかけになったのでは、と和月は当時を振り返っています。

和月は登場人物を実在の剣客をモデルしたと明かしています。

剣心は幕末の四大人斬りのひとりとされる河上彦斎。志々雄は新撰組の初代筆頭局長・芹沢鴨。その他の登場人物も、小太刀の使い手・四乃森蒼紫(しのもりあおし)は新撰組副長・土方歳三、長曽禰虎徹や菊一文字則宗を作中で用いる瀬田宗次郎(せたそうじろう)は新撰組1番隊組長・沖田総司、新撰組3番隊組長・斎藤一は無銘の日本刀を用いるかたちでそのまま登場させ、斬馬刀を用いる相楽左之助は新撰組10番隊組長・原田左之助、新撰組隊士から人斬りの欲求から脱退した鵜堂刃衛(うどうじんえ)は幕末の四大人斬りのひとりとされる岡田以蔵などと和月は記しています。

ガンマン漫画から錬金術漫画へ

るろうに剣心後、ガンマンに憧れる少年のアメリカ西部での活躍を描いた【GUN BLAZE WEST】(2001年〔週刊少年ジャンプ〕連載)を経て、和月は【武装錬金】(2003~2005年〔週刊少年ジャンプ〕連載、2005年〔週刊少年ジャンプ増刊号 赤マルジャンプ 2005 SUMMER〕掲載、 2006年〔週刊少年ジャンプ増刊号 赤マルジャンプ 2006 WINTER〕掲載)を発表します。同作は連載 4年目にテレビアニメ化され、和月の 2作目の代表作となりました。

同作は「とんでも武器や面白兵器で大バトル」をコンセプトに、100年前のイギリスで起きたできごとを端緒とする、人間と錬金術によって産み出された人食いの怪物・ホムンクルスとの100年後の対立を描きます。

主人公の日本の高校生の少年は、使い手の能力によって産み出される武装錬金と称される武器発動具の核鉄(かくがね)を手に入れます。そして錬金の戦士として、突撃槍・サンライトハートを手に敵に立ち向かっていきます。

連載当時は、藤田和日郎【からくりサーカス】、荒川弘【鋼の錬金術師】などの錬金術漫画が先行して人気となっていた時期でした。

和月の刀剣キャラ⑤ 愛刀はソードサムライX・早坂秋水

武装錬金では多彩な登場人物と特殊な武器が登場する中で、剣道家と忍者をモチーフにした登場人物を描きます。

主人公の少年と対立するひとり、高校生・早坂秋水(はやさかしゅうすい)は、成績は学年トップクラス、副会長も務め、剣道部のエースでもある文武両道のエリートです。けれども不幸な生い立ちから永遠の命を望み、ホムンクルスに忠誠を誓います。

剣道経験者の秋水はソードサムライXを手に主人公と相対します。刀剣の名称はるろうに剣心の海外版の表題【サムライX】から付けられました。「エネルギーをからめた攻撃はすべて」、「このソードサムライXの前では無力と化す」という敵の力を奪う能力を持っています。

第30話「接戦」【武装錬金】より

第30話「接戦」
【武装錬金】より

和月の刀剣キャラ⑥ 愛刀はシークレットレイル・根来忍

主人公の味方から一転、命を狙う側になる錬金の戦士のひとり、再殺部隊五号戦士・根来忍(ねごろしのぶ)は忍者がモデルです。

愛刀のシークレットトレイルは、「この刀で斬れる物すべてが私の抜け道となる」という能力を持ち、地面などを斬り裂くことで亜空間へと忍は消え、現実空間と行き来します。

第67話「影の抜け道」【武装錬金】より

第67話「影の抜け道」
【武装錬金】より


第68話「とりあえず―――…」【武装錬金】より

第68話「とりあえず―――…」
【武装錬金】より

第68話「とりあえず―――…」【武装錬金】より

第68話「とりあえず―――…」
【武装錬金】より

鍛冶師が鍛える刀剣から自らの能力に合わせて産み出される刀剣を描いた和月。歴史・時代小説的物語から錬金術の物語を描いた和月。そこでは物語設定を活かした独自の刀剣が常に考え出されています。

著者名:三宅顕人

和月伸宏

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