1980年代以降プロデビューの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

岩明均

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SF漫画【寄生獣】で知られる岩明均(いわあきひとし)。岩明は寄生獣の連載終了後、【雪の峠】、【剣の舞】の2作の時代劇漫画の中編を描いています。そこでは武士文化や刀剣・日本刀の、戦をすることや人を斬る以外の側面が見出されます。

岩明均の初期刀剣漫画

岩明均は考古学者の父のもとで育ちます。漫画との出会いは高校3年生と遅く、手塚治虫を中心に読んでいたといいます。

上村一夫(代表作:小池一夫原作【修羅雪姫】、【同棲時代】など)のアシスタントを経て、第12回ちばてつや賞・一般部門入選作でデビューしました。

青年漫画雑誌を拠点とし、SF漫画【寄生獣】(1988~1995年〔コミックモーニングオープン増刊〕〔月刊アフタヌーン〕連載)が最初の人気作となり、第17回講談社漫画賞・一般部門、第27回星雲賞・コミック部門を受賞しました。謎の生物と共生することになった平凡な男子高校生を通して人間の心に潜む善悪の境界線を問いかけた同作は、永井豪【デビルマン】の影響が指摘されています。

続けて発表したSF伝奇漫画【七夕の国】(1996~1999年〔ビッグコミックスピリッツ〕連載)では、超能力を持つ男子大学生と戦国時代を生きる先祖との奇妙なつながりを描きます。戦国時代、東北の丸神山への築城を巡り、反対派の主人公の先祖が主君に刀剣・日本刀で斬られるところから物語は始まります。

岩明の刀剣キャラ① 太平の世の武将・渋江内膳

続いて岩明は、戦国武将・佐竹義宣の史実を題材にした中編【雪の峠】(1999年【モーニング新マグナム増刊】連載)を発表します。義宣は関ヶ原の戦いで東西どちらにもつかない曖昧な態度をとったことで、戦後、徳川家康によって常陸国から出羽国への国替えを命じられています。

岩明は義宣が西軍についたとし、義宣に仕えた実在の人物・渋江内膳(しぶえないぜん)を主人公としました。浪人の身分から義宣に取り立てられていた内膳は、国替え後の築城案を任されます。戦国の世から太平の世への移り変わりを確信する内膳は、物流拠点となる港町と適度な距離の丘に築城する案を提案します。そして、「このまま太平の世が続き」、「国が富まば2つの町はともに栄えやがて1つにつながることでありましょう」と、戦場で活躍した家老達の前で述べました。

「第二話 鷹の目」【雪の峠】より

「第二話 鷹の目」【雪の峠】より

内膳案は、戦に備え離れた内陸の山上への築城に重きをおく家老達と対立します。けれども最後は、ある道具(馬)の強みを逆手にとった知略で案の実現に至ります。

岩明の刀剣キャラ② 戦国の世の象徴・上杉謙信

雪の峠では、戦国派の象徴として上杉謙信の史実が語られます。 謙信は軍事上の拠点・武蔵国の松山城を北条氏康方から争奪し、上杉憲勝に任せます。対して北条は武田信玄との連合軍で松山城攻めを開始。そこで謙信は援軍として向かいます。けれども馬による雪の峠越えに時間がかかり、到着直前に憲勝は降服。怒った謙信は人質としていた憲勝側の幼子を斬ったとされます。
この謙信のエピソードを岩明は、「やっと峠を……」、「雪の峠を越えてきたというのに……」と鬼気迫る謙信の表情で描きました。

「第二話 鷹の目」【雪の峠】より

「第二話 鷹の目」【雪の峠】より

岩明は雪の峠を、太平の世と戦国の世との境界線として扱いました。岩明は前作の七夕の国の最後、風習を古き良きものではなく、民を土地にしばるものとして描いています。本作・雪の峠でも内膳と謙信どちらも英雄としては描かず、両者の対立の背景にある土地の存在に目が向けられています。

岩明の刀剣キャラ③ ケガをしない撓を開発した上泉信綱

岩明は、雪の峠に続いて中編【剣の舞】(2000年〔ヤングチャンピオン〕連載)を発表します。新陰流の祖・上泉信綱(かみいずみのぶつな)の高弟・疋田文五郎と、復讐に生きる少女との交流を描きました。

岩明は箕輪長野家に仕えた信綱を描くうえで、武田信玄との戦が終わると戦場を離れ、その後は開発した撓(しない)=竹刀で生きたいとしました。信綱は撓について、「これなら思いきり打っても大したケガにはなるまい」と語ります。

「第一話 金貨」【剣の舞】より

「第一話 金貨」
【剣の舞】より

岩明は、信綱が信玄との争いのあとに、その腕前から武田の士官の話が出るも断った逸話と、信綱が撓を開発した逸話を独自に結び付けました。剣は武器ではあるも、自分の意志で道具にすることができる、と示しました。

岩明の刀剣キャラ④ 戦う目的に迷う疋田文五郎

岩明は疋田文五郎(ひきたぶんごろう)を、弟子に迎えた復讐に生きる少女を通して、戦に悩む人物として描きます。少女から戦う理由を問われた文五郎は、「実戦に生かすためにわれらは剣の腕をみがく」と答えるも、改めて実戦の目的を問われると「なに………?」、「目的………」と言葉を詰まらせました。

「第二話 門弟」【剣の舞】より

「第二話 門弟」
【剣の舞】より

岩明は文五郎を通して、剣があるからこそ争いが起きることをほのめかします。

岩明の刀剣キャラ⑤ 金袋を武器にしたハルナ

文五郎に弟子入りした少女・ハルナは農民の子でした。親兄弟を斬った侍を斬ることを目標に剣術を習います。

復讐を果たす直前、ハルナは「動きに無駄が多い………」、「にもかかわらず一点にばかり気をとられすぎる」、「逆なんだ」と言う文五郎の稽古中の言葉を思い出し、「逆…………」、「一点に惑わされず全体を見て………」、「無駄なく!」を理解します。

「第五話 遊び」【剣の舞】より

「第五話 遊び」
【剣の舞】より

岩明の根幹にはひとつの見方にとらわれない考え方があります。それを道具の意外な使い方で見せるのが特徴です。ハルナは金を入れた袋を敵の目をそらす道具としても用い、ピンチをチャンスに変えました。岩明はその一連の動きを、全体を見渡せる見開きページを使って見せました。

岩明のその後の刀剣漫画

岩明はその後、古代ローマの史実を題材にします。【ヘウレーカ】(2001~2002年〔ヤングアニマル嵐〕連載)では、実在の人物である、主人公のダミッポスが、勇猛勇敢とされるスパルタ人であるものの、道具を武器に変えた知略で戦いを勝利に導きます。また、主要登場人物のアルキメデスは自身の生み出した兵器に苦悩します。

第14回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門大賞と第16回手塚治虫文化賞・マンガ大賞を受賞した【ヒストリエ】(2003年~〔月刊アフタヌーン〕不定期連載中)では、アレクサンドロス大王に仕えた実在の書記官・エウメネスを主人公に描きます。野蛮とされるスキタイ人の血をひくエウメネスは、道具を活用するなどの知略で人生を切り開いていきます。

ヒストリエと並行して岩明は、【レイリ】(2015年~〔別冊少年チャンピオン〕連載中)の原作・脚本も手がけます(室井大資作画)。主人公のレイリは、甲斐武田家最後の当主となる武田信勝の影武者に選ばれた女性剣士です。信勝の父・勝頼が、織田信長・徳川家康連合軍に大敗した長篠の戦いで両親を殺されたレイリは、武田家重臣・岡部丹波守元信に拾われ、復讐心から剣術を身につけます。丹波守のためなら命を捨てる覚悟で、信勝のために生きていくことになります。

ヘウレーカ、ヒストリエは雪の峠に、レイリは剣の舞に、それぞれ通じる作品です。

岩明は知略で武力に対抗する主人公、武力を用いても苦悩する主人公を描き続けます。岩明の父・岩城正夫は、古代人の火起こしの復元実験を行なうなど道具に関心を寄せた考古学者でした。その関心は岩明にも受け継がれています。

岩明の刀剣漫画では、刀剣も道具のひとつであり、ゆえにその使われ方、使われた状況への注視を常に行なっています。

著者名:三宅顕人

岩明均

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