戦後生まれの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

寺沢武一

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【COBRA THE SPACE PIRATE】で知られる寺沢武一(てらさわぶいち)。同作の連載と並行して【BLACK KNIGHT BAT 黒騎士バット】、【鴉天狗カブト】も描きました。そこでは、斬らない描写が様々に編み出されています。

寺沢武一の初期刀剣漫画

寺沢武一(てらさわぶいち)は、手塚治虫率いる手塚プロダクションへの作品応募がきっかけで手塚のアシスタントを務めます。

短編で、第13回手塚賞の佳作を受賞後、読み切りをもとにした【COBRA SPACE ADVENTURE】(1978年~〔週刊少年ジャンプ〕他継続中*のちに【COBRA THE SPACE PIRATE】に改題)が連載開始5年目に映画化・テレビアニメ化され、寺沢の最初の代表作となりました。

主人公の宇宙海賊コブラは賞金首を狙い宇宙の旅を続けます。武器は左前腕の義手に仕込んだ特殊な光線銃・サイコガンです。

寺沢はのちにサイコガンについて、勝新太郎主演の映画【座頭市】シリーズ(原作・子母澤寛)に登場する仕込み杖が発想のもとにあったと明かしています。サイコガンは日本人の銃作りの名匠・不知火鉄心(しらぬいてっしん)の作となっています。勝新太郎は映画【不知火検校】で主役の盲目の按摩役を、映画【座頭市】シリーズに先駆けて演じています。

寺沢の刀剣キャラ① サンダーソードの継承者・バット

【COBRA】が長期シリーズ化する中で寺沢は、剣を手にしたバット姫を主人公とした【BLACK KNIGHT BAT 黒騎士バット】(1985年〔週刊少年ジャンプ〕連載)を発表します。【バット】は連載第1回で冒頭部に、いち早くコンピューターグラフィックス(CG)が取り入れられ、のちにフルCG化された実験作でもありました(1997年、ソフトバンク発行)。

「黒騎士登場」【BLACK KNIGHT BAT】より

「黒騎士登場」
【BLACK KNIGHT BAT】より

17歳を迎えたバット・デュランは、生まれた星・星船を一目見ようと現代から秘密の井戸を通って異世界に訪れます。その星には、魔物の手から星を守るためにバットの母親が大きな剣・サンダーソードを突き刺していました。

けれども剣の効力は100年。期せずしてバットが訪れた百年祭に魔物が現れます。バットは生まれた星を守るため、王位継承の証となるサンダーソードを抜き、蘇った4銃士とともに魔物と戦います。サンダーソードは剣台に刺すことで舵にもなり、バットは星船を治めていきます。

「黒騎士登場」【BLACK KNIGHT BAT】より

「黒騎士登場」
【BLACK KNIGHT BAT】より

バットの作品中には、石に突き刺さった剣が抜けたことで王位継承権を示したアーサー王伝説に、ルイス・キャロル【不思議の国のアリス】、アレクサンドル・デュマ【三銃士】などの世界観が取り入れられました。

寺沢と伝奇SF小説ブーム

続いて寺沢は、【鴉天狗カブト】(1987~1989年〔フレッシュジャンプ〕連載*当初【NINJAカブト】)を発表します。戦国時代の日本を舞台に、天狗一族の生き残りであるカブトと闇の力を操る黒夜叉の頭領・黒夜叉道鬼との永遠の争いが描かれます。同作は連載終了の翌年テレビアニメ化され、COBRAに次ぐ寺沢の代表作となりました。

鴉天狗カブトの物語が作られた背景には、伝奇SF小説ブームがあります。当時、夢枕獏(代表作【キマイラ・吼】シリーズなど)、菊地秀行(代表作【魔界都市】シリーズなど)、荒俣宏(【帝都物語】)らが人気を博していました。

彼らのルーツ、半村良(代表作:【妖星伝】、【戦国自衛隊】など)、平井和正(代表作:【幻魔大戦】シリーズ、【ウルフガイ】シリーズなど)、山田風太郎(代表作【忍法帖】シリーズなど)なども見直されます。そのうちのいくつかは同時期に角川春樹によって映画化もされていました(【戦国自衛隊】、【魔界転生】、【伊賀忍法帖】、【幻魔大戦】など)。

寺沢の刀剣キャラ② 妖剣・飛龍の継承者・2代目鴉天狗カブト

鴉天狗カブトの主人公、天狗の生き残りであるカブトは、妖剣・飛龍(ひりゅう)を台座から引き抜いたことで天狗流2代目の鴉天狗を継承します。

飛龍はカブトの父が鍛え上げ、血水で焼を入れました。飛龍は意思を持ち、鍔(つば)にある顔で話します。「わしは血が手に入らなくばわしを持つ者の血を喰らう」と語る魔性の剣です。

【鴉天狗カブト】より

【鴉天狗カブト】より

飛龍を手にしたカブトは、天狗流剣法八十八手円月風車(てんぐりゅうけんぽうはちじゅうはってえんげつふうしゃ)の秘太刀を使います。飛龍を振ることで5寸向こうを太刀風で斬る剣技です。

【鴉天狗カブト】より

【鴉天狗カブト】より

寺沢の刀剣キャラ③ 愛刀は打竜牙・地雷屋白虎

カブトは鴉天狗の継承者として四神(青龍・朱雀・白虎・玄武)を従えます。その1神・地雷屋白虎(じらいやびゃっこ)は、虎鉄と打竜牙(だりゅうが)が愛刀です。虎鉄が折れたことで、刀匠で武器商人の白狼斎幻舟(はくろうさいげんしゅう)から業物・打竜牙(だりゅうが)を手に入れることになります。

「岩や鉄を斬らば真っぷたつに断ち割り刃こぼれひとつせず 人馬を斬らば刃の肌に血の痕をとどめぬ」と打竜牙は説明されます。そして、ふさわしい持ち主が手にすると竜の紋様が現れ、「オオオオオ ウオン」と鳴きます。

【鴉天狗カブト】より

【鴉天狗カブト】より

寺沢の刀剣キャラ④ 愛刀は女紋獣・黒夜叉道鬼

闇の力を操る黒夜叉の頭領・黒夜叉道鬼(くろやしゃどうき)は、カブトの父に地獄の底に封じ込められて以来、天狗一族が宿敵となります。

そんな道鬼は、幻舟が鍛えた妖剣・女紋獣(にょもんじゅう)が愛刀です。女性の性を持つ女紋獣は、同じ鉄と同じ精気による男性の性を持つ打竜牙に会いたいと「オオオオン」と共鳴します。二刀一対の共鳴は林不忘【丹下左膳】から着想を得ています。

【鴉天狗カブト】より

【鴉天狗カブト】より

寺沢の刀剣キャラ⑤ 白虎を右腕に宿す3代目鴉天狗カブト

さらに、天狗流3代目鴉天狗カブトも描かれます。父の残した妖剣・飛龍を受け継いだ3代目は四神を身体に宿します。右腕には白虎が宿りました。3代目カブトは、飛龍を通して虎となったエネルギーを放ち、敵を倒します。天狗抜刀・白虎剣(てんぐばっとう・びゃっこけん)の剣技です。

【鴉天狗カブト】より

【鴉天狗カブト】より

寺沢の刀剣キャラ⑥ 餓鬼道剣に命を封じ込める羅童

道鬼は自身が従える四天王を3代目カブトに仕向けます。その中のひとり、鎧武者姿の羅童(ラドウ)は背負った6本の剣・餓鬼道剣(がきどうけん)に命を封じ込める剣技を持ちます。刺された者は鍔の顔に吸い込まれます。

【鴉天狗カブト】より

【鴉天狗カブト】より

寺沢の刀剣キャラ⑦ 愛刀・女紋獣に天義星を宿す黒夜叉道鬼

さらに道鬼は、降魔天星の呪法で闇の五光星を従えます。天空では守護魔神だった五光星は地上に落ちて悪鬼神となります。天全星は黒エビに、天双星は沈没船に、天道星は巨木に、天忠星は鎧に、そして天義星は道鬼の愛刀・女紋獣に宿りました。力を得た女紋獣は波紋状のエネルギーを放ち、カブトを追い詰めます。

【鴉天狗カブト】より

【鴉天狗カブト】より

その後の寺沢の刀剣漫画

寺沢はその後、青年月刊漫画雑誌の創刊号から連載を開始します(【ゴクウ】、【武 TAKERU】)。【武】(1992年〔コミックバーガー〕連載)では、主人公が非情な忍者からさらに心を消し去った「刃者(はじゃ)」と称され、剣と拳を超える言霊を操り、賞金稼ぎをします。

同作は日本初ともされるマッキントッシュ・グラフィックスによるフルカラーCG漫画でCD-ROM化もされました。その後も寺沢は実写とCGを合成した実験作も発表しています(【GUNDRAGON】シリーズ)。

CGなど、たゆまぬ表現実験を続ける寺沢。刀剣描写では、サイコガン、サンダーソード、白虎剣、餓鬼道剣、女紋獣など一貫して斬らない表現を追求し続けています。

著者名:三宅顕人

寺沢武一

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