戦後生まれの刀剣漫画家・刀剣漫画原作者

安彦良和

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アニメ【機動戦士ガンダム】のキャラクターデザイン及び作画監督で知られる安彦良和(やすひこよしかず)。日本神話をもとにした漫画【ナムジ】、【神武】、【ヤマトタケル】では天叢雲剣を描きます。ナムジは「剣と魔法」を描いた少女漫画が多数発表され始めた時期に連載が始まり、少女漫画と少年漫画との接点のひとつになります。

安彦良和と鎧武者ロボットアニメ

安彦良和(やすひこよしかず)は、手塚治虫横山光輝を愛読する少年時代を過ごします。学生運動での挫折を経て、手塚治虫が創設した虫プロダクションの求人に応募し、アニメーターになりました。

虫プロ倒産後はフリーとなり、虫プロの流れをくむアニメ制作会社が手がけるテレビアニメで、絵コンテやキャラクターデザイン、作画監督を担当しました(【宇宙戦艦ヤマト】、【ゼロテスター】、【勇者ライディーン】、【超電磁ロボ コン・バトラーV】、【無敵超人ザンボット3】、【機動戦士ガンダム】など)。

【勇者ライディーン】では、メカニックデザインの村上克司(むらかみかつし)とともに主人公が乗る鎧武者のロボットを生み出しました。

安彦良和の初期刀剣漫画

安彦は機動戦士ガンダムの作画監督を担当する中で、漫画【アリオン】(1979~1984年〔アニメージュ増刊 リュウ〕他連載)を発表します。【宇宙戦艦ヤマト】の大人気によって創刊されたアニメ総合雑誌の増刊号から連載されました。

安彦は漫画を描くにあたり、SF作家・高千穂遥(代表作:【クラッシャージョウ】シリーズ、【ダーティペア】シリーズなど)に一から描き方を教わっています。

アリオンは、ギリシア神話の神々を人間化した物語です。主人公の少年アリオンを通して父親の代から続く王座争いが描かれます。アリオンは謎めいた黒の獅子王に手渡された剣や不思議な力を持つ少女から手渡された炎の剣を手に戦い、霊力も描きます。

手塚治虫門下でトキワ荘唯一の女性漫画家・水野英子(みずのえいこ)などの先駆はあるものの、アリオンは山岸凉子(やまぎしりょうこ)【妖精王】や和田慎二(わだしんじ)【ピグマリオ】などギリシア神話や北欧神話など西洋神話をベースにした少女漫画群の登場直後に描かれ、以後日本の漫画に増えていく 「剣と魔法」を描いた日本最初期の漫画のひとつともされます。

漫画連載を続けながら安彦は、アニメ映画の監督も手がけます(【クラッシャージョウ】、【巨神ゴーグ】など)。アリオンも自身の監督でアニメ映画化し(衣装デザインなどキャラクターデザイン協力に山岸涼子)、漫画家と映画監督を兼業しました。

安彦の刀剣キャラ① 宝剣を手に儀式を突きつけるスサノオ

安彦は後発のアニメ映画人気作の登場(【超時空要塞マクロス】、【風の谷のナウシカ】など)や自身のアニメ映画監督業の挫折感などから、漫画家を専業にします。

日本神話を独自の物語として描き下ろした【ナムジ 大國主 古事記巻之一】(1989~1991年、徳間書店発行)が専業初の漫画となります。同作は、第19回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞しました。

ナムジは、スサノオの子孫・大国主の別称です。スサノオ率いる王国・於投馬(いづも)に幼き頃流れ着いたナムジは、スサノオの娘婿となります。その後ナムジは、スサノオとの子をもうけることになる日霊女(ヒミコ)率いる邪馬台(やまと)攻めを行ないます。しかし捕虜となり、邪馬台でスサノオと同じように妻を娶り、やがて於投馬と戦うことになります。

安彦は原田常治(はらだつねじ)【古代日本正史 記紀以前の資料による】を種本に、国造りの野望と挫折を描きました。

【ナムジ】でスサノオは、娘を身ごもらせたナムジに、オロチを斬った宝剣を手にその決意を迫ります。ヤマタノオロチ退治でよく知られる天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)です。そして、ナムジを娘の夫として迎える条件を、スサノオの母・イザナミの霊を慰める儀式「鬼魅払い(おにはらい)」からの帰還としました。安彦の剣と魔法の場面のひとつです。

【ナムジ】第二部 第一章「黄泉」より

【ナムジ】第二部 第一章
「黄泉」より

【ナムジ】第二部 第一章「黄泉」より

【ナムジ】第二部 第一章
「黄泉」より

【ナムジ】第二部 第一章「黄泉」より

【ナムジ】第二部 第一章
「黄泉」より

独自の日本史観を描く

安彦はナムジ以降、日本神話に基づいた漫画を続けて描いていきます。ナムジの続編の書き下ろし【神武 古事記巻之二】(1992~1995年、徳間書店発行)、さらにその続編とした【蚤の王】(2001年〔モーニング 新マグナム増刊〕連載)です。ナムジの息子や神武天皇の東征、出雲系の野見宿禰(のみのすくね)を描きました。【神武】では、不思議な力を持つヒミコが亡き夫・スサノオが残した刀剣を愛おしむ姿を描いています。

この間も日本史を軸にした漫画を多数発表し、独自の日本観・アジア観を描きます(【虹色のトロツキー】、【安東】、【王道の狗】、【麗島夢譚】、【天の血脈】など)。第4回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門優秀賞受賞作【天の血脈】(2012~2016年〔月刊アフタヌーン〕連載)では、原七支刀を通して朝鮮半島と日本とのつながりを独自に描いています。

安彦と侍をモチーフにしたガンダム

「ガンダム」シリーズ専門漫画雑誌の創刊にあたり安彦は、【機動戦士ガンダム THE ORIGIN】(2001~2011 年〔ガンダムエース〕連載)を発表します。【THE ORIGIN】を描くにあたり、テレビアニメ「機動戦士ガンダム」のメカニックデザインを手がけた大河原邦男(おおがわらくにお:その他代表作「タイムボカン」シリーズなど)で話し合いがもたれ、有人機動兵器(モビルスーツ)の新たなデザインもなされています。

大河原は主人公の少年が操るモビルスーツ・ガンダムについて、侍をモチーフに描いたと明かしています。また光線の剣(ビームサーベル)を用いるガンダム登場の数年前には映画【スター・ウォーズ】でライトセーバーが登場しており、大河原はその影響も語っています。よく知られるようにスター・ウォーズは黒澤明映画の影響下にあります。

第43回星雲賞・コミック部門を受賞したTHE ORIGINは、WEBコミック創刊にあたってフルカラー化されます(2014年~〔ComicWalker〕連載中)。それまでにオールカラーで描いた自作漫画(【ジャンヌ】、【イエス】、【マラヤ】)に続きました。

安彦の刀剣キャラ② 天叢雲剣を手離したヤマトタケル

「サムライ」が掲げられた新漫画雑誌の創刊にあたり安彦は、【ヤマトタケル】(2012~2013年〔サムライエース〕連載、2014~2018年〔ComicWalker〕連載)を発表します。【古事記】、【日本書記】をもとに、纒向(まきむく)に朝廷を置くヤマトの王の皇子・小碓皇子(おうすのみこ)が、父に疎んじられるも懸命に生きる姿を描きました。「ヤマトタケル」は、クマソタケル退治によって小碓皇子が名乗った名前です。

ヤマトタケルでは、父から東征を命じられたヤマトタケルが伊勢で叔母の倭姫命(やまとひめのみこと)より天叢雲剣を伝授される場面も描かれます。スサノオ由来の天叢雲剣の鞘鳴りによってヤマトタケルは野火の難から救われます(草薙剣の由来)。けれども東征を終えた帰路、尾張で妻のひとりとなった宮津姫(みやずひめ)に天叢雲剣を預けて去ったことで命を落とすことになります。

【ヤマトタケル】十九話より

【ヤマトタケル】
十九話より

【ヤマトタケル】二十八話より

【ヤマトタケル】
二十八話より

安彦は、「必らずや あなたの力にもなり このクニを護ってもくれよう!」と宮津姫のためにヤマトタケルが自らの意志で天叢雲剣を置いていったとし、剣が持っていた不思議な力と悲劇性を表現しました。

安彦は、日本神話をもとにしたナムジ、神武、ヤマトタケルを通じて天叢雲剣を描き続けました。西洋神話をもとにしたアリオン発表時期以来、日本の漫画で剣と魔法が描かれ始めた初期から続く大きな流れです。それはまた、少女漫画から少年漫画への流れでもあります。

著者名:三宅顕人

安彦良和

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宮下あきら

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【うる星やつら】で知られる高橋留美子(たかはしるみこ)。高橋は剣道青年や刀剣を手にする女性の登場人物を幾度も登場させています。【らんま1/2】もその1作です。男女の性を固定しない人物も多数描く高橋は、戦国時代を舞台に兄弟間の妖刀争奪を描いた【犬夜叉】では、刀剣そのものに斬れるとき/斬れないときの両義性を持たせました。

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寺沢武一

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【COBRA THE SPACE PIRATE】で知られる寺沢武一(てらさわぶいち)。同作の連載と並行して【BLACK KNIGHT BAT 黒騎士バット】、【鴉天狗カブト】も描きました。そこでは、斬らない描写が様々に編み出されています。

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【がんばれ元気】などのスポーツ漫画でも知られる小山ゆう。「劇画」ブームの立役者のさいとう・たかをと小池一夫のもとで働いたのち、幕末を舞台に剣の腕も立つ少年を主人公にした【おれは直角】でデビューしました。【お~い!竜馬】、【あずみ】などその後も歴史・時代小説のツボを知りつくした時代劇漫画を描いています。

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村上もとか

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【JIN-仁-】で知られる村上もとか。初期作で岩手の剣道少年を主人公に描いた【六三四の剣】は日本に何度目かの剣道ブームを起こした金字塔です。その後も明治時代初頭の北海道を舞台に元・会津藩士の親子を【獣剣伝説】で描きます。方言や地方の描写にこだわったそれらの漫画には、東京を舞台にした漫画とは違う刀剣観が根底に流れています。

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本宮ひろ志

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【男一匹ガキ大将】、【サラリーマン金太郎】などで知られる本宮ひろ志(もとみやひろし)。本宮は【夢幻の如く】、【昼まで寝太郎】などの時代劇漫画も描いています。タイムスリップや双子の入れ替わりという基本設定に、刀を用いたくない主人公像が描かれます。

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永井豪

永井豪
【デビルマン】、【キューティーハニー】などで知られる永井豪(ながいごう)。永井は白土三平の影響を公言しています。【黒の獅士】、【バイオレンスジャック】では特にその影響をもとに描き、白土を乗り越えることが目指されます。それらの漫画では光線を放つ日本刀や巨大なジャックナイフが描かれます。

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