日本刀を作る

よく切れる日本刀の秘訣と作られ方

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「世界一切れる」と名高い日本刀。「西洋剣」は突き刺すことに優れていますが、日本刀は突き刺すことはもちろん、斬り裂くことにも優れています。 また、日本刀には、武器としての側面だけでなく、その美しさを鑑賞する芸術品としての側面もあり、多くの愛好家が存在。その姿からは、刀匠(とうしょう)が精進を重ねて作られたさまが手に取るように感じられます。日本刀の製法は、長い歴史の中で試行錯誤を重ねて培われてきました。そのため、どこか難しいイメージを持っている方も多いかと思いますし、その全貌は掴みにくい物ですよね。ここでは、日本刀を作る難しさが具体的にはどのようなところにあるのかをご説明します。

日本刀制作に必要な技術とは?

折り返し鍛錬

折り返し鍛錬

刀匠による「作刀」の様子をイメージするとき、多くの方は、火花を散らしながら熱い鉄を打っているところを想像するのではないでしょうか。

そのイメージ通り、いくつかある工程の中でも、刀の仕上がりを最も左右すると言っても過言ではないのが、鋼を打って鍛える「鍛錬」(たんれん)です。時代によって異なりますが、主に、砂鉄を製錬した「玉鋼」(たまはがね)が、日本刀制作に使用されています。

強く加熱し沸かされた鋼を平たく打ち伸ばしたあと、横にタガネで刻みを入れて折り返し、2枚重ねにする作業を約15回行ないます。ただ打ち伸ばすのではなく折り返すことで、粘土を練るような状態になり、粘りを出して鋼の強度を高める効果があるのです。

  • 刀剣奉納鍛錬

    折り返し鍛錬・焼き入れ

    折り返し鍛錬・焼き入れ

    刀匠による刀剣奉納鍛錬(折り返し鍛錬・焼き入れ)の様子を動画でご覧頂けます。

  • 刀剣奉納鍛錬

    多度大社「刀剣奉納」

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    • 刀匠魂
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        • 刀匠魂その1

          その1

        • 刀匠魂その2

          その2

        • 刀匠魂その3

          その3

この一連の作業を「折り返し鍛錬」と言い、鋼の炭素含有量を均一化するために必要な物です。

ただし、鍛錬を繰り返すことで現れてくる肌目の模様を予想しながら作業を行なわなければ、理想の美しさを持つ日本刀にはならず、回数が多すぎると逆に強度が下がってしまいます。

また、鍛錬中には、鋼を打つ強さのみならず、鋼の温度にも気を配らなければなりません。鋼を沸かす際の適温は、「スラグ」(鋼を作る際に出てくる不純物)が溶けながらも、鋼は溶けることがない1,200~1,300℃です。この温度帯よりも鋼の温度が上昇してしまうと、鋼にヒビが入るだけでなく、刀が折れてしまう場合もあります。

そのため、鋼そのものに過度なストレスを与えない程度に、鋼の温度を保っておくことが重要です。このようにいくつも細心の注意を払わなければならない折り返し鍛錬には、一朝一夕には習得することができない繊細な技術が必要となります。

西洋剣との違いから見る刀匠の技術力の高さ

造込み

造込み

日本刀の制作がいかに難しい物であるのかは、西洋剣との違いにも見ることができます。西洋剣と日本刀の大きな違いはその構造。西洋剣が1種類の原材料のみを用いるのに対し、日本刀はやわらかい鋼=心鉄(しんがね)を硬い鋼=皮鉄(かわがね)で包んで刃が作られています。

この2種類の鋼を合わせる「造込み」は、鍛錬の次に行なわれる作業で、その方法や形は、流派や時代によって様々です。鋼は、硬ければ硬いほど切れ味は良くなりますが、反面すぐに欠けてしまう脆弱さを併せ持っています。これを補うため、やわらかく衝撃に強い鋼の表面にだけ、とても硬い鋼を組み合わせるのです。

皮鉄と心鉄を一体化する際には、藁灰(わらばい)と泥水を付けて沸かしますが、この加減が十分でないと上手く一体化せず傷物になってしまうため、この作業でもまた、刀匠の技術と行き届いた目配りが欠かせません。この硬さの異なる鋼を用いるハイブリッドな構造を完成させることで、日本刀の最大の特徴である、「折れず」、「曲がらず」、「よく切れる」という性能が実現されました。それは、これまでの刀匠達が追究を重ねてきた努力の賜物なのです。

また、熱処理を施す中で、刃文(はもん)や(にえ)、(におい)といった美しい模様も出せるように。切れる武器としての優れた機能はもちろんですが、あまりにも美しい姿から、現代では美術品としての需要が高まっています。

曲がり癖のある日本刀

日本刀の形は、刃側、側、鎬側、この3点のしっかりとしたバランスの上に成り立っています。しかし、強い衝撃を受けたとき、一時的にバランスがとれずに曲がってしまうことがあるのです。これが「腰が抜けた」と呼ばれる状態。

曲がった刀が、自らバランスを取ろうとして自然に直ることもあります。復元力を内部に持っている日本刀のすぐれたところです。

逆に、「曲がり癖」が付いて直らないことも。この場合は、そもそもバランスを取る力が何らかの原因で足らなかったと考えられます。

刀の曲がりや捩れ(ねじれ)の癖は、あってはならない欠陥と言えますが、以下のような原因で曲がり癖のある日本刀ができあがることがあります。

  1. 焼き入れの時点で曲がってしまった
  2. 研ぎの段階で曲がってしまった
  3. 曲がりを直そうとして、余計な力を加えた

曲がり癖のある捩れた刀は、片面に強い力が加わり、もう片面にはそれよりも弱い力が加わります。一旦、まっすぐに直すことはできるかもしれません。ただし、アンバランスな力関係により、結局曲がってしまうことになります。これが曲がり癖になってしまうのです。

  • 正常な日本刀

    正常な日本刀

  • 曲がり癖の付いた日本刀

    曲がり癖の付いた日本刀

日本刀は、美術品。曲がってしまった刀やバランスの悪い刀は、美術品としての価値はありません。

切れることは、試し斬りで実証済み!

戦で生きるか死ぬかの武士にとって、日本刀が良く切れるかどうかは重大です。そのため、室町時代には「試剣術」が生まれ、実際に試し斬りが行なわれていました。その試し斬りに使用した物とは、何と罪人の死体。

今から約220年前に出版された「懐宝剣尺」、「古今鍛冶備考」という読み物にも、罪人の屍を使用して試し斬りをした実例が、何とランキング形式で書かれています。良く切れる刀から、「最上大業物」、「大業物」、「良業物」、「業物」と4段階で評価。

例えば、罪人の死体を重ねて両断する方法があり、1体斬れたら業物、2体斬れたら良業物。最上大業物は同時に7体斬れたことが記されています。恐ろしくも、日本刀が良く切れることは、実証・実績済みなのです。

日本刀の伝統を後世に正しく伝えるために

伝統を受け継ぐ覚悟の証「刀匠資格」

刀匠になるには、文化庁から「作刀承認」を受けている刀匠のもとで5年以上修行し、8日間に亘って行なわれる文化庁主催の「作刀実地研修会」に参加する必要があります。修行開始後満4年で参加できるようになりますが、実質的には実地試験であるため、基礎的かつ正確な技術が要求されるのです。

また、5年以上の修行に耐えて作刀承認を受けられたとしても、刀匠としての厳しい道のりはその先の方が長いもの。刀匠の国家資格を取得するということは、単に作刀承認を受けた証しであるだけではなく、日本刀に込められてきた伝統を継承する覚悟の表れとも言えます。

作刀に手続きが必要になったのは、3度目の「刀狩り」が発端だった!?

美術刀剣類製作承認申請書

美術刀剣類製作承認申請書

作刀承認を得たあと、実際の作刀に取り掛かることになりますが、その際には下記のような手続きを経る必要があります。

  1. 所属する都道府県の教育委員会へ「美術刀剣類製作承認申請書」を提出
  2. 承認後、日本刀を制作

作刀に国家資格と手続きが必要になったのには、第二次世界大戦が終了した1945年(昭和20年)、ポツダム宣言の受諾により規定された日本の武装解除が背景にあります。

この規定により大量の刀剣が連合軍によって海中に投棄されただけではなく、作刀も禁じられることになりました。日本刀には、1588年(天正16年)に「豊臣秀吉」(とよとみひでよし)により布告された「刀狩令」(かたながりれい)、1876年(明治9年)に太政官(だじょうかん:明治政府初期の最高行政官庁)によって出された「廃刀令」(はいとうれい)の2度の受難がありましたが、第二次世界大戦後の武装解除こそが、最大の悲劇であったと言えます。

その事態に対し、多くの日本人が日本文化そのものである刀剣を絶やしてはならないとの思いを抱いていたのです。そして、その強い思いが連合軍司令部を動かすこととなり、1953年(昭和28年)に施行された「武器等製造法」により、「武器」ではない、「美術品」としての価値が高い刀剣であれば、文化財保護委員会(現・文化庁)の作刀承認を受けることで制作が可能になりました。

作刀承認に関する戦後からの流れによって、日本で日本刀を作るのには、国からの資格や、登録を含む手続きが必要になりましたが、そのような国は他には見られません。

しかし、それらがあることで、犯罪などに使われることを防止したり、国宝重要文化財である刀剣を海外に流出させたりしないことにも繋がっています。日本の伝統技術が詰まった日本刀の存在を守っていくためには、とても重要であると言えるのです。

よく切れる日本刀の秘訣と作られ方

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日本刀の作り方(制作方法)

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武器としての強靭さはもちろん、美術品としての美しさもかね備えているのが日本刀です。鉄を鍛える技術が平安時代にユーラシア大陸から伝わって以来、日本刀の制作技術は長い歴史の中で磨かれ、発展してきました。ここでは、現代に伝わる日本刀の作り方について、その一例をご紹介します。

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刀鍛冶になるには

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現在、日本刀を制作するためには、「都道府県公安委員会」に登録して許可を受けることが必要です。そのためには先輩刀匠に弟子入りし、日本刀制作の技術はもちろん、日本の歴史、文化などを深く学ぶことが求められます。修行期間は最短で5年。日本を代表する美術工芸品である日本刀の制作を許された刀鍛冶は、鉄(玉鋼:たまはがね)を鍛える技術と科学知識を有するのみでなく、歴史・文化への造詣も深い、現代における「日本文化のプロフェッショナル」と言うべき特別な存在なのです。ここでは、刀鍛冶という「職業」に着目し、そこに至る道のりをご紹介します。

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刀鍛冶の道具

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日本刀の鍛錬(たんれん)と、その制作にかかわる全工程において、刀鍛冶が用いる鍛冶道具は30点近くあります。例えば、「火床」(ほど)、「切り鏨」(きりたがね)、「捩り取り」(ねじりとり)など、刀鍛冶の道具は名前を読むのが難しい物ばかり。 現代では市販されている道具もありますが、刀鍛冶が使いやすいように手を加えたりすることや、はじめから刀鍛冶自ら作ったりすることもあります。いずれも刀鍛冶の長年の経験に基づいた創意工夫がなされている鍛冶道具です。ここでは、刀鍛冶の鍛冶道具それぞれの用途や材質についてご説明します。

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玉鋼の特徴

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日本刀の原料として広く知られる「玉鋼」(たまはがね)。世界で最も純粋な鋼とも言われていますが、その製法は限定的であり、玉鋼を使用して作り出される製品もまた限られています。そこで、玉鋼がなぜ刀の原料として最適と言われているのか、またその名前の由来や、他の鉄と比べて良質であると評される理由についてご紹介します。

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たたら製鉄の歴史と仕組み

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「日本刀」の材料として使われる「玉鋼」(たまはがね)は、「たたら製鉄」法によって生産される鋼。砂鉄を原料、木炭を燃料として粘土製の炉を用いて比較的低温度で還元することによって、純度の高い鉄が精製されるのです。日本においては、西洋から大規模な製鉄技術が伝わった近代初期にまで、国内における鉄生産のすべてがこの方法で行なわれていました。ここでは、日本刀作りに欠かすことのできない、たたら製鉄についてご紹介します。

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沸し(わかし)

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「折れず・曲がらず・よく切れる」。日本刀に興味がある人なら誰もが1度は耳にしたことがある、日本刀の優れた強靭性を表す言葉です。日本刀制作には、いくつもの工程がありますが、そのような刀を完成させるために、「玉鋼」(たまはがね)を叩いて鍛える「鍛錬」(たんれん)という工程が欠かせないことはよく知られています。しかし、完成した刀が良質な物になるかどうかは、実は鍛錬の直前に行なわれる、「沸し」(わかし:「積み沸し」とも)と呼ばれる工程のできによって左右されるのです。ここでは、そんな沸しの工程について順を追ってご紹介しながら、沸しが日本刀制作において重要な役割を果たす理由について探っていきます。

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たたら製鉄(玉鋼誕生物語)

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玉鋼を作る「たたら製鉄」の歴史(玉鋼誕生物語)を動画にてご紹介します。

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焼刃土

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「焼刃土」(やきばつち)とは、刀身に「焼き入れ」(やきいれ)を行なう際に、刀身に塗る特別に配合された土のこと。日本刀制作においては、大まかに「たたら製鉄」によって、材料となる「玉鋼」(たまはがね)を精製することに始まり、刀匠による鍛錬や「火造り」(ひづくり:日本刀の形に打ち出すこと)などを経て、焼き入れが行なわれます。焼き入れによって刀身を構成する鋼が変態して硬化すると共に「刃文」などが出現することで、日本刀の美術的価値にも直結。焼刃土が登場するのは、言わば、日本刀に命を吹き込む総仕上げの場面なのです。

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棟焼(むねやき)とは

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日本刀制作における「焼き入れ」は、刀身の強さや刃の切れ味を左右する最重要工程のひとつです。その際、「焼刃土」(やきばつち)を刀身に塗る「土置き」(つちおき)が行なわれます。刃側には薄く焼刃土を塗ることで、刀身を熱したあとに水で冷やした際の冷却速度を上げ、刃部分を硬くして切れ味の良い刃にすると共に、刃文を作出するのです(=焼きが入る)。他方、棟側には厚く焼刃土を塗ることで、冷却速度を緩やかにして刀身の靭性(じんせい:粘り強さ)を高め、刀身を折れにくくします(=焼きが入らない)。このように、棟側には焼きを入れない(入らない)のが通常ですが、例外的に棟に焼きが入れた(入った)作も。ここでは棟に焼きを入れる(入る)「棟焼」(むねやき)についてご説明します。

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