陣羽織
江戸時代
しゅらしゃじんばおり 朱羅紗陣羽織

本陣羽織の表地に使われている鮮やかな朱色の生地は、「羅紗」(らしゃ)と呼ばれる厚手の紡毛織物。南蛮貿易によってもたらされた羅紗は、表面を起毛させたフェルトのような材質となっており、丈夫で保温性に優れていました。そのため、高級品ではありましたが、戦場での防寒着として甲冑(鎧兜)の上から着用する陣羽織に多く使われ、武将のあいだで流行した素材です。
背面に配されている紋章は、「入れ子釘抜き菱」(いれこくぎぬきびし)の文様。ここで言う「釘抜き」とは、現代のバールのような物ではなく、菱形の座金(ざがね)と鉄製の梃子(てこ)がセットになった、「万力」(まんりき)とも呼ばれる古い工具のこと。
釘抜き紋では、その座金部分のみを意匠化しており、「万の力で困難を突破する」という意味や、「釘抜き」の読みが「9城を抜く」、すなわち「9城を陥落させる」ことに通じることから、戦勝を願って用いられた紋章であると考えられています。
また、釘抜き紋の下部に大きく施されているのは、雲に乗って天まで飛翔する龍の姿を表した「雲龍」(うんりゅう)の刺繍。雲龍文は、幸運や万能の象徴とされる吉祥文様です。本陣羽織は、縁起を担いで強くありたいという武士の想いが窺える1点であると言えます。