
伊勢神宮
多度大社と「伊勢神宮」は密接な関係にあります。それは、多度大社がお伊勢参りの街道沿いにあり、伊勢神宮への入口とされていた地理的条件に加え、多度大社の御祭神が伊勢神宮に祀られている「天照大御神」の第3皇子「天津彦根命」ということに由来。
そのため、多度大社は「北伊勢大神宮」とも称されます。このような関係にあることから、「お伊勢参らばお多度もかけよ、お多度かけねば片参り」と謡われ、伊勢参宮の折には、必ず多度大社をお参りしたことがうかがわれ、全国の人々から篤い崇敬を受けています。
日本神話(天の岩戸物語)
ホテル多度温泉(東建多度カントリークラブ・名古屋)で毎夜開催されている「空中CGアニメ・レーザーショー」で使用の「日本神話(天の岩戸物語)」動画がご覧頂けます。
かつては御神体山として崇められていた「多度山」には、約1,500年前から白馬が棲むと伝えられてきました。白馬は人々の願いを神様に届ける役割を担っていたとされ、言わば人間から神様への伝言役。また、神様が降臨する際には馬に乗ってきたとされており、神様と馬の関係性はとても深いのです。それゆえ、馬の行動が神様の意思を表していると考えられたのでした。これが派生して南北朝時代頃に、勇壮な神事が誕生します。それが毎年5月の多度大社例祭で、三重県無形民俗文化財の「上げ馬神事」(あげうましんじ)です。境内にある急坂と約2mの崖を人馬が一体となって駆け上がり、上がった人馬の数や順番などから、その年の農作物の時期や豊凶が占われるようになりました。
「多度祭」における最初の神事は、4月1日に行なわれる「神占式」(しんせんしき)。宮司が神様の御神意を仰ぎ、その年の神児(ちご:主に小学校低学年の児童)、騎手(主に高校生)が選ばれます。祭りの中心でもある上げ馬神事は、躍動的で勇壮である反面、大変な危険を伴う物であるため、精進潔斎(しょうじんけっさい:不浄なものを避け、心身を清浄にすること)が厳格に行なわれ、常に穢れ(けがれ)なき姿で奉仕します。

三重県無形民俗文化財 多度大社上げ馬神事
多度大社のある三重県桑名市を代表する日本刀と言えば、妖刀「村正」。多度大社所蔵の日本刀にも、村正に由来する物があります。代表的な物は短刀「銘 正重」(めい まさしげ)と太刀「銘 勢州桑名住藤原勝吉」(めい せいしゅうくわなじゅうふじわらかつよし)の2振で、いずれも三重県指定有形文化財です。
正重は、「千子派」(せんごは)を代表する刀工で、初代村正の子とも伝えられています。また藤原勝吉は、安土桃山時代から江戸時代前期にかけて活動していた「千子正重」一派の刀工でした。いずれも村正の流れを汲む刀工です。屈指の知名度を誇る日本刀の村正ブランドは、桑名の地にしっかりと根付きました。
多度大社と鍛冶の神様

刀鍛冶の神様
多度大社と日本刀には、深いかかわりがあります。別宮の「一目連神社」(いちもくれんじんじゃ)の御祭神は、天津彦根命の子「天目一箇命」(あまのまひとつのみこと)。
この天目一箇命は、天照大御神が弟「素戔嗚尊」(すさのおのみこと)の乱暴に怒り、天の岩戸に隠れた際に、天照大御神の気を引くために刀斧・鉄鐸を作っていました。
「大物主命」(おおものぬしのみこと)を祀る際には「作金命」(かなだくみ)として、祭祀用の道具を制作。このことから、天目一箇命は製鉄・鍛冶の神様とされ、製鉄技術に加えて鉄を鍛える鍛錬技術も必要とされる「刀鍛冶の神様」です。なお、天目一箇とは片目の意味で、「一目連」とは片目が潰れてしまった龍神。習合によって天目一箇命と一目連が同一視されるようになりました。
天目一箇命は御神威を発揚される際、いち早く御殿をお出ましになると言い伝えられていることから、一目連神社の御社殿には御扉を設けない特殊な構造になっています。

尾川兼國氏
前述のように、多度大社の別宮・一目連神社に祀られているのは、刀鍛冶の神様・天目一箇命であり、御鎮座する桑名は刀工集団・村正の拠点。彼らのルーツは「
五箇伝」(ごかでん)のひとつ「
美濃伝」の本拠・美濃(現在の
岐阜県)であるとも言われています。
それらの縁により、2018年(平成30年)には、多度大社において美濃を拠点としている「無鑑査刀匠」尾川兼國氏による「刀剣奉納鍛錬」が行なわれました。
「無鑑査」とは、日本刀制作者が技を披露する展覧会「現代刀職展」(旧新作名刀展)において、別格として扱われる現代刀匠の最高クラスの資格。1958年(昭和33年)に初の取得者が出てから、2018年(平成30年)までの間に無鑑査資格を取得した刀匠は、わずか37人という狭き門となっています。
また、多度大社では天目一箇命をお祀りすることから「ふいご祭」が執り行なわれます。ここでは鉄工関係者が参列の上、作業安全、社運隆昌が祈願され、鉄を精製する際に空気を送り込んで燃焼を促すために用いられる道具である「ふいご」を祓い清める多度大社と鍛冶の深い関係性がある祭事です。
天目一箇命の名前にある「目一箇」(まひとつ)とは、目がひとつであるという意味。ひとつ目の神である理由は諸説ありますが、鍛冶が温度を見るときに片目をつむっていたことに由来する説や、長時間炎を見続ける鍛冶の職業病として片目を失明することが多かったことによる説などがあります。この特徴に関しては、ギリシア神話に登場する鍛冶の神様「キュクロプス」もひとつ目であるため、鍛冶を司る神様特有の特徴なのかもしれません。