第六回 思い出の名品

アーカイブ

アーカイブ ※この記事は2020年5月15日に発行されたものです。

これまでにご紹介した名品のほかにも、思い出のお品は多々ある。所有者が秘蔵されていることもあって公開できないものがあるのは残念だが、可能な範囲でいくつか挙げてみたい。

重要文化財の長光太刀は、名義人の吉川睦子様ご本人が持参されご来店くださった。身幅広く、重ねも厚い豪壮な一振だった。

たまたま遊びに来た大野義光刀匠に見せると、「この写しを作ってみたいので、後日よく見せてほしい」とのことだった。私は「この刀は売らずに自分で持つことにする」と頼みを承諾したのだが、すぐに売れてしまった。意欲満々で再訪された大野氏は、刀がないことを知ると「約束が違う」とひどく立腹していた。刀匠の製作欲をかき立てるほどの名刀だったということであろう。

吉川様には鎌倉時代の兜(重文)も扱わせていただいたが、これは神奈川県立歴史博物館の所蔵となっている。また重文の延寿国資の太刀は、国宝指定のない延寿の現存品の中では最高峰の作品だと思う。さらに『日本刀大鑑』所載の古備前行秀について、小笠原信夫先生は「重文に指定された太刀の中でも最右翼だ」と評価されていたが、誠に重量感のある魅力的な作品だった。

重文ではほかに名物愛染国俊三条吉家、備前元重、畠田守家、了戒、古備前秀近、来国俊などを扱わせていただいた。

重要美術品も数多く手がけたが、一番の思い出に残るのは佐藤寒山先生の『日本名刀百選』にも紹介されている「朝嵐」勝光である。刃中の働きや変化が見事で、重美の中でも屈指の刀だと思う。

行秀と朝嵐は現在、佐野美術館に寄託されているので、いずれ展観されてご覧になれる機会もあるだろう。

特別重要刀剣の多賀正宗(短刀)には本阿弥光温の代金子百枚の折紙が付いており、国宝の九鬼正宗を彷彿とさせる名刀だった。

そのほかの名品も現在、メトロポリタン美術館・大英博物館・東京国立博物館国立歴史民俗博物館江戸東京博物館など海外、国立・県立・市立等の施設に所蔵されている。一点一点が皆良い思い出である。

前へ

記事一覧へ

次へ

注目ワード
注目ワード