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刀剣ブログ

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日本刀に息づく生命(いのち)

日本刀に息づく生命(いのち)

「日本刀(刀剣)にはたくさんの生き物が棲(す)んでいる」と言ったら驚くでしょうか?「拵」(こしらえ)と呼ばれる刀装具の部分や、近寄りがたい威容を誇る刀身それ自体にも、様々な動物や植物などが生き生きとした姿を浮かび上がらせています。そこに込められたのは、刀工や金工家の芸術的センスと、技術力の粋(すい)。そして、日本刀(刀剣)を「魂」とも考える武士の想いです。今回は、名匠達が精魂込めて生み出した意匠の中から、特に「龍」と「動物」、「草花」に注目してご紹介します。

日本刀に宿る龍

西洋のドラゴンは、しばしばヴィラン(悪役)として神話や物語に登場します。

近代の創作では善なる存在として描かれることもありますが、ドラゴンは多くの場合、悪の化身として悪魔と同一視され、恐ろしい物、倒すべき物として表現されてきました。これは、創世神話でイブをそそのかした蛇と関連付けられ、嫌悪されているからだとも言われています。また、ドラゴンは荒々しい自然現象の象徴でもあり、これに対して人間は抗い、支配するべきだという西洋の考え方も理由のひとつです。

一方、日本を始めとする東洋では、龍は神秘的な存在として神聖視されています

東洋の龍も、やはり自然現象と結び付けられ、とりわけ「竜巻」や「稲妻」など、気象と水に関する現象は龍が司る(つかさどる)ものです。そして「万物には神が宿る」という自然信仰が受け入れられているため、龍は恐ろしい存在ではありますが、倒すべき物ではなく、敬意を払うべき存在と考えられてきました

逆に、一神教が主流となっている西洋では、自然現象を神として捉えることはできなかったのです。

日本においては、畏怖すべき自然の象徴である龍を、武士が自らの日本刀(刀剣)に取り入れたいと望んだとしても不思議ではありません。日本刀(刀剣)に表された龍の意匠には、所有者を守護する目的があり、また、その大いなる力にあやかり敵を降伏させたいという願いも込められているのです。

悪を滅する龍・倶利伽羅

大倶利伽羅広光(おおくりからひろみつ)

制作者は相州「広光」とされています。広光は、刀工のトップブランド「正宗」(まさむね)の門人とも、実子、あるいは養子であるとも伝えられる南北朝時代の刀匠です。

広光が鍛えたこの日本刀(刀剣)の刀身には、剣(つるぎ)に巻き付いている龍、すなわち「倶利伽羅」(くりから)が彫り込まれていて、この彫り物が刀号の由来になりました。

倶利伽羅とは、「倶利伽羅龍王」(くりからりゅうおう)の略で、龍の神であり、また「不動明王」(ふどうみょうおう)の化身でもあります。剣は不動明王が転じた姿を表し、不動明王が使う神通力を龍の姿で表しているのです。不動明王、すなわち倶利伽羅は、すべての煩悩(ぼんのう)や怒りを鎮め、消滅させる力があると言われ、ついには悪を屈服させるという意味があります

倶梨伽羅

倶梨伽羅

小龍景光(こりゅうかげみつ)

「のぞき龍景光」と呼ばれる名刀です。銘には、表に「備前国長船住景光」(びぜんのくにおさふねじゅうかげみつ)、裏には「元亨二年五月日」とあります。元亨2年は西暦1322年にあたり、鎌倉時代末期の作品です。南北朝時代には、「後醍醐天皇」(ごだいごてんのう)に仕えた「楠木正成」(くすのきまさしげ)が佩用(はいよう)していたと伝えられています。

のぞき龍とは何でしょうか?

この小龍景光の刀身にも、不動明王の化身の龍・倶利伽羅が刻まれているのですが、「茎」(なかご)を大きく磨り上げたために、「柄」(つか)に収めると、倶利伽羅の半分が隠れてしまうのです。見えるのは、首から上だけが少し覗く姿。このため、のぞき龍景光という異名を持つことになったのです。

半分しか見えなくても、その倶利伽羅に魅せられたのでしょうか、楠木正成は自害する最期まで、小龍景光を手放さなかったと言います。

小龍景光

小龍景光

万物を守護する這龍

這龍図鐔(はいりゅうずつば)

「越前住記内」(えちぜんじゅうきない)という銘のある、「這龍」(はいりゅう)を表した「鐔」(つば)です。這龍とは、倶利伽羅と同じく不動明王の力を示した物。そこには、古代中国の竜神信仰も大きく影響しています。この龍は善の象徴であり、あらゆる物を守護してくれる存在です。

「這龍図鍔」を制作した記内派は、鉄地肌に「肉彫地透」(にくぼりじすかし)で龍の図を表現することを得意としていました。

この鐔では、龍の片目を金象嵌、もう片方は透かし抜いていて、多様な表現を追求した工夫が見て取れます。全身をうねらせるように躍動する龍の姿には迫力があり、さすが龍の図を得意としていただけのことはあると思わせてくれる作品です。

日本刀に表された生き物の営み

日本刀(刀剣)の装飾に表される生き物は、神にも等しい力を持つ龍だけではありません。

日本の自然の中で生きる動物達や、さらに身近な家畜すら装飾として施されています。そこには、龍に対するものよりもっと近しい自然への畏敬の念や、五穀豊穣への願い、そして動物の姿を通して語る人としての教訓すら含まれているのです。

月を掴もうとする猿

猿猴捕月図鐔(えんこうほげつのずつば)

猿が木の枝にぶら下がって手を伸ばし、水に映った月を掴もうとしています。すぐそこにあるように見える水面の月ですが、もちろん掴めるはずはありません。この図柄は、自分の力量を知ることの大切さを暗示していると言われています。

鐔は安土桃山時代の作品で、切られた銘は、「山城国伏見住金家」(やましろのくにふしみじゅうかねいえ)。金家は単なる鐔工ではなく、武芸の「円明流」(えんめいりゅう)を極めた武士であり、古典に通じた文化人でもありました。

「猿猴捕月図鐔」も、古典とその時代の感性を融合させて、ひとつの絵画に仕立てています。強く鍛えた鉄地肌には槌の跡を残し、高彫した絵柄は象嵌としました。また、打ち返した耳は額縁にも似て、金家の芸術性の高さがうかがえます。

豊作への願いを込めて

牛車図目貫(ぎっしゃずめぬき)

「目貫」(めぬき)とは、刀身を柄に収めたときに固定するためにさす釘、またはそれを覆う金具のこと。のちに金具部分が独立して、より装飾的になりました。

いくつもの米俵を曳く牛は、豊作の象徴です。領地の農作物が豊かに実ってほしいという願いが、ひしひしと伝わってくるデザインとなっています。

鮮やかな金無垢地を打ち出し、際端(きばた:目貫の側面部)を絞ってふっくらとした質感を表現。全体的に緻密な毛彫りを加えただけでなく、鼻、口、耳などの繊細な部分の表情も精巧です。この目貫の制作者は「後藤宗乗」(ごとうそうじょう)。金工界の権威である後藤家の始祖「後藤祐乗」(ごとうゆうじょう)を補佐して、金工芸術を育てた2代目です。牛を題材とした作品は、後藤家の代々がしばしば手掛けています。

牛車図目貫

牛車図目貫

日本刀に萌ゆる草花

桜や菊をはじめ、葡萄(ぶどう)、稲穂、桔梗、唐草などの植物を施した優美な図柄も、武士が好んだデザインのひとつです。洗練された華やかな装飾は、格式を示す物でもあり、同時に自然に対する敬意と、豊穣への願いも込められています

そして金工家にとっても、装飾性の高いこれらのモチーフは、自らの技量を披露する絶好の機会にもなりました。

武道(葡萄)に律す(栗鼠)

葡萄棚に栗鼠図鐔(ぶどうだなにりすずつば)

たわわに実る葡萄棚で栗鼠(りす)が遊ぶ構図は、日本や中国で好まれ、鐔など日本刀(刀剣)の拵の他、陶磁器や漆器などでも良く見られます。たくさんの実がなる葡萄と、子だくさんな栗鼠。どちらも多産と多幸、子孫繁栄を表すモチーフです。また、「武道に律す」(ぶどうにりす)の語呂合わせから、武道に真摯に向き合う武士の心に適いました。

作者の銘は「長門萩住中井善助/友恒作」(ながとはぎじゅうなかいぜんすけ/ともつねさく)。江戸時代中期の作品です。真鍮製の鐔の周縁を赤銅(しゃくどう)の縁取りで飾っています。

赤銅の黒色と、銅の茶色でメリハリを付け、葡萄の蔓と実は表面の質感を変えて立体感を出しました。細かな工夫が目を引く作品です。

植物が持つ生命力への憧れ

秋草図鐔(あきくさずつば)

植物は四季を通じて、芽吹き、育ち、実を付け、枯れ、冬を経てまた翌年には芽吹きます。

一度は枯れた物が、また新たな生命を得て育つ。植物のモチーフには、この永遠の生命への憧れが込められています。 

赤銅の魚子地(ななこじ)に、様々な秋草を高彫金銀色絵で表現した「秋草図鐔」。秋草を鐔の外周である耳から中心へと向けた構図となっており、繊細にしてとても豪華です。

制作者の銘はありませんが、「加賀後藤」の作品だと伝えられています。加賀後藤の一派は、「加賀国金沢」(かがのくにかなざわ)の前田家の厚遇を受けて栄えました。

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